憧れ

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 ここから夢を現実のものにする。全ては、この漢中より始まると、そう、思っていた。  あれから、月日は過ぎた。十年も経っているのに、未だ、自分の中の時間はあの時から進んでいない。  漢中を奪い、ようやく天下への道が開けた、そんな最中の出来事である。荊州の守備を任されていた関羽将軍が、突如、三国の内の一つで同盟を結んでいたはずの「呉」の裏切りによって戦死。また、張飛将軍も配下の将に暗殺され、その首は呉へ渡った。  天下統一を目標に掲げるなら、この時ほど、魏へ攻め込む絶好の機会は無かった。しかし劉備は、総力を挙げて呉を討たんとした。その怒りは、決して誰であろうと止めることは出来なかったのだ。  魏延は劉備の留守となった成都、漢中の守備を担った。流石に、戦乱を生き抜いてきた男の進軍である。聞こえてくる報告は連戦連勝、呉を滅ぼせる、その直前まで進撃した。  しかし、魏延が、劉備との再会を果たすことは、無かった。  劉備は最後の一戦において大敗を喫した。それは、蜀軍が今まで何十年と掛けて蓄えてきた総力のほとんどを失うほどの、それほどの大敗だった。劉備もまた、命からがら、なんとか逃げた。
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