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「ネットの騒ぎな、あれ、こないだの晶の仕業だから」 陽太の部屋のベッドの上に腰かけて、その膝の上に彼を乗せて、宥めるようにそっと髪を撫でながら、鷹城は言った。 あいつはあの日、君のスマホから俺の歌ってる音源盗んだんだよ、全く。 あの日、陽太がリビングの床で眠っているところに、鷹城と晶が帰って来た。 というよりは、曲作りの打合せしたいから、と無理矢理晶が鷹城にくっついてきたというのが正確なところらしいが。 鷹城が陽太を寝室に運んでいる隙に、興味本意で陽太の聴いていたイヤホンを耳にした晶は、あの曲に一目惚れ…一耳惚れ?したらしい。 こっそり自分のスマホのSDカードにコピーしたのだとか。 そして、あの曲をデビュー曲にしたいと鷹城に頼み込んだものの、鷹城は全く取り合ってくれなかった上に冷たく追い帰されるという仕打ちを受けて、カッとなって衝動的にネットに上げてしまったというわけだ。 「んとに、甘やかされて育ったガキは、後先考えねえでつまんねえことばっかしやがる」 ブツブツと文句を言いつつも、鷹城の視線は物珍しげに部屋の中を眺め回している。 陽太の部屋に興味津々らしい。 「さすがに副社長(おじさん)も今回ばかりは相当腹に据えかねたらしくてな、あいつは当分謹慎らしい…スマホもタブレットも全部取り上げられて」 今回の騒動は、一歩間違えれば事務所の稼ぎ頭のOriental Blue(オリブル)の致命的なスキャンダルになりかねない事態だからだ。 オリブルはセージの曲なしでは成り立たないし、鷹城(セージ)は陽太を失うならもう曲は書けない、と言いきっている。 「今日の夜、生放送の音楽特番に、オリブルが出演するから、それ見ててみ。アオイが上手くやってくれるから」 大人には大人のやり方がある。 だから、こんなふうに一人で抱え込んで、勝手に俺の前から消えようとするなんて、もう二度としないって約束して? 君に会えなくなったら、俺は廃人になるよ? 鷹城はそう囁いて、膝の上の陽太をぎゅっと抱き締める。 「君の恋人はさ、すげえ重たくてめんどくさい男なんだ…ごめんな?」 こんなときなのに、君の部屋が見られて嬉しいとか思ってんのも悪い男だよな。 「ただ、あの曲だけ、君にあげるって約束したのに、アオイに歌わせることになっちゃうのだけ、許してくれるか?」 君にはまた、君だけの曲を作るから。
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