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Oriental Blueは、3年前に彗星のように突如、人気ドラマの主題歌を歌って爆発的なヒットを飛ばしメジャーデビューしてから今まで一度も、テレビには露出していない。
だから、その夜の特番は異例の事態だった。
でも、そろそろ露出を控えすぎるのもこうやって詮索が激しくなる一方だから限界はあって、いい機会だったんだ、と鷹城は言っていたが。
司会に紹介され、歌う前のトークの時間。
番組の進行をする大物司会者が「なんか今、ネットで色々騒がれてるらしいけど、オリブルの作曲担当してる君のお兄さん?恋人に新曲流出されちゃったんだって?」といきなり爆弾を投下する。
お兄さん、のところにやたら微妙なアクセントを置いたことに、アオイがその端正な顔を意味深に緩めて微笑む。
そして。
どうなるのだろう、と胸が潰れるほど心配しながら画面に釘付けになっていた陽太は、一瞬耳を疑った。
アオイが、あの歌をアカペラで突然ワンフレーズ歌ったのだが。
まるで、鷹城が歌っているのかと思うほど、あの流出した音源に似た歌声だったのだ。
「この歌のことですか?」
途中で歌を切ったアオイは、そう言ってまた悪戯っ子のように微笑んだ。
「今日歌わせていただくのもこの新曲なんですけれど、僕の双子の兄のオトモダチが少しフライングしちゃったみたいで…プライベートに歌ってるところなんて、恥ずかしいから流出されるの困るんですけど…あっ、いや、兄がそう言ってて」
アオイはそう言って、ニッコリ笑う。
微妙な言い回しをすることで、以前から根強くある「作曲担当のセージはアオイ本人が作曲する際のもう一つの名前設定説」を再び浸透させる方向に持っていこうとしている。
しかも、嘘をついているわけでもない。
更に、アオイの歌声ではないと思われていた歌声とそっくりの歌い方をしてみせることで、流出した音源はあたかもアオイの歌声であるかのようなダメ押しをしてみせたのだ。
双子の兄セージ、は架空の人物に過ぎない。
そう世間に印象づけるための茶番を、しらっとアオイは演じてみせている。
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