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一方的にそう言って、彼は電話を切った。 そんな切られ方をしたら、鷹城がすぐに電話を折り返してくることはわかっていた。 だから、スマホの電源を落としてしまう。 その小さな端末の電源を落としてしまえば、世間の興味半分の詮索や心無い悪意からも切り離される気がした。 何もなかったことにはできないことは、百も承知だったけれども。 そして、もちろん、鷹城に対しても、本当はきちんと説明をするべきだったということもわかってはいた。 でも、そのひとの声を聞いていたら、せっかくの決心が鈍ってしまいそうで。 何をどう説明していいのかも、混乱する頭と気持ちでは少しも整理できなかった。 とにかく、鷹城と陽太は一緒にいてはいけないということだけが、頭を占めていた。 鷹城を悪者にしたくない。 あんなに誰もを魅了するすごい曲を作るひとを、誰にも悪く言われたくない。 そのひとはただ、陽太を好きになってくれただけだ。 そして、陽太も彼を好きになった。 何も悪いことはしていない。 でも、それが世間一般からしたら糾弾されるような悪いことだというのだろうか。 陽太がまだ高校生で、男だから? せめて陽太が女子だったなら、もっと何か方法があったのだろうか? いっそ結婚してしまうとか。 歳が離れていようが、高校生だろうが、制度に乗っ取って正式な手続きを踏んで形を整えれば、日本人という民族は急に文句を言わなくなる。 よく言えば、生真面目な民族なのだろう。 だけど、男同士ではそれもできない。 同性婚の制度もない上に、そもそも男は18歳にならないと結婚できないのだ。 それはつまり、陽太と鷹城は一緒にいてはいけない、と糾弾する人たちに、法律という強大な免罪符を与えているようなものだ。 好き放題悪く言っても構わないという。 陽太が鷹城を避けて会わないようにしていれば、これ以上大きな火種になることなく、この騒動はいずれ他の話題に埋もれて消えていくだろうか? そのときまで、鷹城は陽太を好きでいてくれるだろうか。 それとも、そんなめんどくさい相手には飽きて、他の誰かを隣に連れているだろうか。 そんなことを考えてしまい、陽太は電源の落ちたスマホを握り締め、目の奥が熱くなるのを堪えていた。
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