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しかし、それはできない。 鷹城は、ネットの騒ぎを知っているのだろうか? ここに来ているところだって、誰に撮られているのかわからないのに。 陽太は、スマホの電源を入れた。 インターフォンで直接返事をするのは、どうしてもできない、と思ったからだ。 電源を入れた途端、切っていた間の着信が数十回あったことを知らせる通知に驚く。 全部、鷹城からだ。 LINEのメッセージも、途切れることなく一晩中送り続けられていた。 全部に目を通すことはできないぐらい、何ページにも渡っているようだ。 「電話に出て」「話したい」「頼むから声を聞かせて」「会いたい」「会って話したい」「君を失いたくない」 もしも、陽太が本当に鷹城を嫌になって別れたいと思っているのなら、間違いなくストーカーと言っていいぐらい、延々と続く愛と情熱、哀切と寂寥に溢れた言葉。 一晩中、起きていたのだろうか? 既読にならないメッセージを送り続けて。 ピンポーン。 三度(みたび)鳴らされた音に、陽太はハッと我に返る。 長々とここにいさせてはいけない。 スマホを操作して、鷹城の名前を呼び出す。 登録された名前の横には、鷹城が勝手に陽太のスマホを操作して自撮りした写真のアイコンが表示された。 泣きたくなるぐらい、そのひとを好きだ。 写真一つ見るだけで、そんな想いに潰されそうになる。 「陽太、いるんだろ?会いたい」 電話はコール音なしに、いきなり鷹城の声が出た。 インターフォンの画面に写る鷹城は、スマホを耳に当ててこちらを見ている。 そんなに切羽詰まった顔をする鷹城なんて、初めて見た。 いつも余裕たっぷりで、何事も飄々と交わしていくような、とらえどころのないスマートなひとなのに。 まるで、今にも泣き出しそうな顔をしている。 「ダメ、です…鷹城さん、こんなとこにいたら」 今すぐ帰って下さい。 「君に一目でも会えたら帰るから」 鷹城は食い下がる。 「会ってくれないなら、いつまでもここにいる」 そう言われてしまったら、何て言って鷹城を帰せばいいのかわからない。 言葉につまる陽太の足元に、タロウが駆けてきた。 電話から漏れ聞こえる鷹城の声に反応したのか、クーンと鼻を鳴らして、彼の周りをぐるぐる回り始めた。 タロウも鷹城に会いたがっているのだ。 陽太も、この老いた柴犬のように、そんなふうに素直に甘えた声を出して鷹城の胸に飛び込めたら。
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