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マンションの外で待つ事10分。
緒方が黒の軽自動車を歩道に寄せて、後ろに乗れ、と手で合図をする。
「軽なのかよ。もっとイカツイやつ乗ってんのかと思った。しかもいい歳してぬいぐるみとか置いてっし」
「母親の車借りてきたんだよ、どっかのCEO様と一緒にするな。あと俺はまだアラサーだ、いい歳じゃない」
柊さんは車も持ってないし、20代半ばで自分の事をおっさんだって言うような人だけどな。
緒方との何気ない会話で、俺は少しだけ緊張が解ける。
「お前の嫌な予感が、ハズレてて欲しいけどな」
車が走り出してすぐに、緒方がボソッと呟く。
俺だってそう思ってる。だけど、どうしても不安が拭えない。
「緒方、ありがと」
「礼はミナトの無事を確認してから言え」
この時まだ、俺達は何も知らなかった。
柊さんの苦しみも思惑も、何も。
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