事故

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だけど、相手の車の後部座席に子供が乗っていて、血まみれになっていたけど、微かに動いたのが見えて、俺は無我夢中でその子を車から引きずり出した。 どこからか騒ぐ人の声が聞こえて、まずいと思った俺は、その子を路上に置いて逃げたんだ。 「これが、あの事故の真実だ・・・」 「・・・」 「本当に申し訳ない。謝っても許してもらえないのはわかってる」 「・・・だから、柊さんは俺を養子に?」 「新聞で、あの子供は生きてたんだと知り、何が出来るわけでもないけど、俺なりに調べて、施設に預けられると知った」 「・・・」 「当時15だった俺は、自分のせいで両親を失ったその子に何ができるか、ずっと考えてた」 「・・・」 「大人になったら養子縁組ができるように、その子を引き取れるように、ただそれだけを思って、必死で勉強して人並み以上には稼げるようになった・・・だけど、もうその子は当時の俺と同じ歳になっていて」 「・・・」 「正直、断られるんじゃないかと思ってたけど、夏は受け入れてくれた。亡くなったご両親の代わりになんてなれないけど、どうしても夏の家族になりたかった」 「柊さん・・・」 「亡くなったご両親にしてもらえるはずだったことを少しでもいいから俺にさせてくれないか?」 「もう帰りましょう。柊さん、からだ、すごく震えてます。続きは家で話しましょう」 正直、俺はこの時、落胆だとか軽蔑だとか驚愕だとか、そんな感情は無くて、ただ柊さんの震える肩や、テーブルの上で組まれた震える手から目が離せないでいた。
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