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来訪者
翌日、日曜だった事もあり、柊さんに誘われて出かけることになった。
タクシーに乗って1時間。街から離れ、郊外へ向かう。
「なんか俺、この景色見覚えあるんですけど・・・」
窓の外の景色に既視感を覚えた。
「もう少しかかるかな、夏、車酔いとかしてないか?」
昨日、あんな事させたのに、いつもと変わらない優しい柊さんの口調。
少しくらい意識してくれたっていいのに。父として息子の世話をした、くらいにしか思ってないのかな。なんか悔しいな。
「大丈夫です」
「そうか。・・・すみませんそこの角のところで停めてください」
タクシーを待たせて、二人で入ったのは小さな花屋。
「夏、好きなの選んで」
え・・・。選べって言われても、花なんか全然わかんないし、どういう気持ちで選べばいいんだよ。
「どれでもいいよ。夏が、いいなと思った花ならどれでも。俺も花は詳しくないから」
戸惑う俺を見て、柊さんはニコッと微笑む。
そう言われてもなぁ・・・。
「じゃあ・・・」
何となく柊さんに似合うような、淡い色の花を何種類か選ぶ。
選んだ花で作って貰った、白や黄色や薄いオレンジが織り混ざった小さなブーケが二つ。
「はは、夏って意外と可愛いシュミなんだな」
店員さんからブーケを受け取った柊さんが笑う。
柊さんをイメージして選んだんだから、可愛いのはあなたって事ですよ・・・。わかってんのかな、この大人は。
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