囚われの羊

4/16
前へ
/177ページ
次へ
どこをどう彷徨ったかもわからないまま、気付けば俺は、自分が育ってきた施設の前にいた。 今更ここへ来たって、どうしようもないだろ・・・。 俺は施設の門に背を向けて歩き出す。 「もしかして夏?」 後ろから声を掛けられて振り返ると、施設長であるシスターが門の内側から、優しく微笑んで俺を見ていた。 「やっぱり夏だ。ついこの前お別れした時にはまだ子供だったのに、大人の顔をしているから、誰かと思ったわ」 「シスター・・・久しぶり」 「どうしたの?湊さんと喧嘩でもしたの?」 「そんなんじゃないよ」 ケンカなんかしてない。ケンカするほど、俺達は深い関係じゃないから。 「そう・・・。あなたの事が心配だけれど、湊さんの許可なくここへ入れる事はできないの。連絡しましょうか?」 「ううん。たまたま近くに来たから懐かしくて。もう帰るよ」 柊さんに連絡なんかされたら、困る。
/177ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1803人が本棚に入れています
本棚に追加