囚われの羊

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マンションの下まで戻ってきたけど、なんか入りづらいな・・・ 「夏!」 え・・・? 家にいるはずの柊さんが、なぜかマンションに沿った歩道を走って俺に駆け寄って来る。 「今、何時だと思ってるんだ!」 スマホを見ると、午後10時少し前。 画面には、不在着信・・・17件!? 「いつもなら9時には帰ってるだろ!何やってたんだよ!こんな時間まで!」 柊さんは、今までに見たこともないくらいの険しい顔で声を荒らげている。 「すみません。少し遠回りして帰ってきたんで・・・」 「なんで電話に出ないんだよ!心配するだろ!なんかあったのかと・・・・・・」 はあはあ、と肩で大きく息をしている柊さん。近付くと、白い首筋に汗が流れるのが見えた。 「夏に何かあったら・・・俺は・・・」 もしかして、帰りが遅い俺を、こんなになってまで探してくれてた・・・? 「心配かけてすみま・・・」 ぐぅぅぅぅ 言いかけた言葉を自分の腹の音に遮られてしまった。 こんな時になんで鳴っちゃうんだよ~! 「・・・夏、夕飯食べてないのか?」 「なんか・・・食べ損ねちゃって・・・」 夕飯の事なんか、すっかり忘れてた。 「出てるついでに、ラーメンでも食って帰ろっか」 険しかった柊さんの顔は、いつもの優しい笑顔に戻っていた。 俺は、柊さんに大切にされている。 恋人や好きな人に対するそれではないけれど。 俺だけが柊さんからもらえる特別なもの。
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