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電車に乗ってしばらくすると、遠くにある観覧車が建物の間から顔を覗かせる。
「夏くん、遊園地好き?」
河森に聞かれたけど、俺は答える事が出来なかった。
だって、遊園地なんて行った事がない。
『亡くなったご両親にしてもらえるはずだったことを少しでもいいから俺にさせてくれないか?』
ふと、柊さんに言われた言葉が頭を過ぎった。
両親と遊園地に行った記憶は、俺には無い。
俺は・・・
「ごめん、河森。俺、ちょっと急用」
遊園地の二駅前で、慌てて電車を降りる。
「ちょっと夏くん!?」
河森の怒る声が聞こえたけど、俺は振り返ること無く反対側のホームに向かう。
俺は・・・初めて遊園地に一緒に行くのは、柊さんがいい。
柊さんの「初めて」が俺じゃなくていい。
俺の、まだ知らない「初めて」は、家族でいてくれる柊さんと一緒がいい。
俺の大切な家族。
大切な父親だからこそ、万里さんとの関係はやっぱり許せない。
電車を降りて、全速力で走ってマンションに帰った。
玄関にはまだ万里さんの靴がある。
リビングには誰もいない。
柊さんの部屋のドアの前、微かに聞こえる柊さんの声。
このドアを開けたら、きっと見たくもない光景があるに違いない。
俺が終わらせてやる。ふたりの関係を・・・。
ふたりの不毛な関係を、俺が息子として終わらせてやる。
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