1792人が本棚に入れています
本棚に追加
/177ページ
囚われの羊
柊さんを安心させるために河森と恋人ごっこを始めてから1ヶ月。
毎週末、行きたくもない河森とのデートに出掛けている。
お互い好きでもない相手とのデート。
昼から出掛けて、ネットカフェの別々の個室で時間を潰して、一緒に夕飯を食べてから帰る。
デート、のフリ。
河森は、柊さんに会いたいと言って家に来たがるけど、俺は、なんだかんだ理由をつけて断っている。
今日も河森との嘘デートのために、出掛けなければならない。
「夏、千里ちゃんとデート?すっかり息子盗られちゃったなぁ」
玄関で靴を履く俺を見て、「盗られた」と言いながらも柊さんは嬉しそうに笑う。
「あんまり遅くなって、千里ちゃんの御両親に心配かけるなよ?」
「はい。いつも通り、夕飯食ったら帰ってきます。いってきます」
「ああ。気を付けてな」
送り出してくれる柊さんの笑顔が・・・俺には何よりもつらい。
柊さんが、行くなって言ってくれたら・・・。俺が河森と何をしてるのか、少しでも気にしてくれたなら・・・。
俺の淡い期待は、いつも打ち砕かれてしまう。
最初のコメントを投稿しよう!