デイドリーム ビリーバー

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 その昔、ビートルズ全盛時代に、それに触発されたさまざまなグループ・サウンズが世界中で誕生した。その中で生まれたひとつに、アメリカのモンキーズがある。もともと彼らは、ビートルズ人気を当て込んで、おそらくビートルズ主演のドタバタ音楽映画の「ヘルプ!」とかの線を狙ったであろう米製コメディTV番組向けに結成されたきわめて人工的グループであった。  それはさておき、彼らの残した名曲の中に"デイドリームビリーバー"というものがある。直訳すると"白昼夢信者"となる、他愛のない恋の歌。恋する相手の素敵な女の子が、自分に振り向いてくれたら、それは、女王様が家に訪問してくださったほどにすばらしいこと。そのようにこの歌は、語る。  恋する少年とは、そんな気持ちを女の子に持つのである。それは、恋する男の子が洋の東西、時代の昨今を問わず普遍的に感じる、甘酸っぱい思いなのではないだろうか。だからこそ、この歌は、今も繰り返し、ラジオから流れてくるわけで。  正直言うと、しかし、東丈は、この歌が嫌いである。  このモンキーズが日本でも評判になった時代に青春を生きた世代だったのだが、この米の商業主義臭まんまんの連中の歌うそれは”とってつけたような”感覚しか、彼には、もたらさなかった。そこには、東丈の反骨による、あからさまではないが反米意識もあったかもしれない。そこには安保闘争、米ソ冷戦、ベトナム戦争といったの時代背景もあったことも間違いない。そして、もっと大きな理由があった。  東丈は、いわゆるの意味で恋をしたことがない。それは、別に彼が今世間でいわれるLGBT、同性愛者といった性的少数者の一人ということではない。性欲は異性にむくし、当然ながらそれなりの女性遍歴を持っていることは言っておかねばなるまい。ただし、長続きしないという以上に、恋愛という以上に、一晩だけの関わりで終わってしまう。女性の側がそうでなかったとしても、少なくとも、東丈の側は、そっけないものであった。その意味では、女性が”あいつが欲しかったのは、自分の体だけだったのか”と諦め、あるいは怒り、彼の前から去っていく。今まで、ことごとく、そういう関係しか成立しなかったのである。なぜか。  女性たちには申し訳ないが、彼が”絶世の美男子”だからだ。彼が恋する前に、女性たちのほうが、彼を求めて門前市をなす、なのだ。
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