デイドリーム ビリーバー

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 もっと下世話な言い方をすれば、女性の側から”股を開く”状況なのだ。世の男性の理想の環境というべきなのだが、しかし、東丈は、それが不満だった。  彼の内面の評価の前に、その面相のよさだけで、女性が寄ってきて、交情を求める。その、肉の脂身を顔に寄せられるような感覚。結局、そうした艶福環境も、程度問題なのだ。  千年も昔なら彼の交情遍歴も”光源氏の物語”として好評になったかもしれないが、近寄ってくる女性陣に応じるほどの旺盛な性欲のなかった・・もちろん十人並みの欲はあったが、その意味では凡人に過ぎない東丈にはそれは色欲地獄としか感じられず。  だからこそ、彼は、なかなか女子が寄り付かないような趣味に走ったとも言える。その趣味が高じて、今の生業ともなっている。  超常現象研究家。変人、変わり者。大学時代から、それは始まっていた。そのためについたあだ名は”聖者”確かに、興味を持ったことにはのめりこむ執着壁があったのは間違いなく、その意味では趣味に走ったこともあるが、女性との間に壁を築くことがその目的の一部であったことは否定できない。  だからこそ、彼は素直な少年の恋愛経験を持ったことがない。それをどうのと感じたことはないが、ないはずだが、時折ラジオから流れてくるデイドリームビリバーの歌を聞くと、自分のその人生遍歴を思わないわけではないのだ。  それを残念だとは一度も思ったことはないはずだ。もはや初老という年齢になった今でも、半ば条件反射的に感じる思いであった。  大学を出て、まだ駆け出しの研究家のとき、とにかく仕事があるわけもなく、SF雑誌からの依頼で書いた読みきり短編が、意外な好評を得た。"太陽の戦士"というそれは、後日、世界的な敏腕邦人プロデューサの目に留まり、ハリウッドで映画化されることになった。原作提供、脚本参加だけでなく、主役に抜擢されたのは、そのプロデューサーが東丈の美貌を見ての冗談だったろう。  そのプロデューサーは、完全に米のショービジネスを体得しており、まだろくすっぽはなしもまとまっていない段階で、日本だけでなく米で政策発表会を行い、話題づくりを急いだ。東丈も、当然その発表会に借り出され、渡米したのだった。ところが、その移動中にとんでもないことが起こったのだ。
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