デイドリーム ビリーバー

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 NYからロサンゼルスに向かう途中のDC-8ごと、米合衆国の上空で行方不明になってしまったのだ。後日、その乗員は全員、"なんとなく"生還しているのを個別に、しかも時間も場所もばらばらに発見されたのだった。東丈の帰還は、その中では最後に近く、その間に失踪事件から半年ほどが経過していた。  その間にどこで何をしていたかは、乗員全員が貴重ら乗組員も含めて、記憶喪失になっていた。一番有力なのは、やはりUFOによる拉致というものだったが、世論を受けての米軍のかなり本気の調査にあっても、その結果は誰も記憶を思い出せなかったとして、完全に原因不明事件として迷宮入りしたのだった。 "超常現象研究科が、超常現象に巻き込まれてどうするか"というのが、東丈が講演するときの常套句なのだが、それはそれで記憶が今もまったくないのであるから、冗談にもならないわけで。  ただ、その行方不明の半年ほどの間でも、映画の製作のほうは、とにかく機械的に進められ、東丈が書いた記憶のない脚本を元に、新たに主役と監督を仕立ててクランクインしていたのだった。その意味では、ハリウッド映画でのスクリーンデビューを逃したという連中もいるが、東丈個人としては、自分が演技の訓練を一度も受けたことのない以上、学芸会以上のそれをする自信がないわけで、世界的な大恥をかかなくて済んだと、公言してはばからなかった。映画自体は、大コケこそしなかったが、カルト筋のマニアに根強い人気を持っているが、プロデューサたちの目論見ほどは行かない、いわゆるそこそこのスマッシュヒットで終わった。そうして、今日に至っている。  とにかく、今でも東丈にも、あのDC-8遭難当時の記憶はまったくよみがえってこないのであった。吉祥寺のビルの廊下に倒れているのが見つかったというが、そうか、というしかない。確かに、丈のふるさとなのだが、68年ころに前あったビルを壊して建築されたらしいので、当時築10年ほどか。しかし、なぜそこなのか、思い当たるところがまったくない。姉の三千子によると、名前を告げぬ謎の女性によって彼女に連絡があり、救急車で病院に運び込まれたらしいが、当然ながら意識不明の丈にはまったく記憶がないわけで。  気がつけば、もうあの遭難事件からも30年近くになるではないか。 「まったく、若年性の健忘症も、困ったものじゃな」 「出たな、妖怪。ドク・タイガー」
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