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東丈は、不意に現れたそのヨレた白人の小太りの男に向かって言った。
「いいじゃないか。今日は原稿の締め切りでもなく、暇なのじゃろ」
「あんたの相手をするほどは暇じゃない。何しに来た」
「そんな、邪険にするなよ、わしとおまえの間じゃないか」
「なんだ、その、読者が誤解するような言い方はやめてくれ。僕はストレートなんだ」
「わしも、そうじゃ」
「ならば、どこか、女性にでもコナをかけてきたらどうだ」
「それをいえば、わしは、おまえさんにご執心なのじゃ」
「だから、その言い方を辞めろ。読者が誤解する」
「いい体をしているね、君、幻魔にならんか」
「ならん、帰れ。僕は、超能力者じゃないと、何度言わせる」
「言論の自由じゃ。しかし、実際は違うのだ」
「だ~か~ら~」
「思い出せよ、あの失われた半年の間に何があったのか、東丈」
「いやだ。思い出さなくても、僕はまったく困らんことがわかっているからな」
「それでは、わしが困る」
「まさか、僕が記憶を取り戻したら、おまえさんのいうような超能力者になるとでも思っているのか」
「ご明察、さてさて、テレパシーを使ったのかな」
「ちが~う」
「デイドリームビリバーか、懐かしいな」その歌を聴きながら、ドクが言った。
「ドクも知っているのか」
「なんじゃ、その意外そうな顔は。わしもアメリカ人のまっとうな白人じゃからな」
「人種差別主義者か、ならば僕みたいな日本人、黄色人種になんか、執心するなよ。アメリカや欧州で活躍したらどうだ。あちらにでも、立派な超能力者はたくさんいるのに」
「なぜか、お前さんに勝る能力者はおらんのだ。まったく、なぜかわからんが、神様の意地悪とでも言うしかないな」
「また、葉巻を吸う、ここは禁煙なんだぞ。まあ、編集者なら、こちらも商売だからしかたないけど」
「もともとは、おまえさんも結構なヘビースモーカだったんじゃないか」
「そうだったか?」
「それも、あの遭難事件からこっち、めっきりすわなくなった、違うか」
「そうだったっけ。まあ、確かにタバコを見ても吸いたいと思わなくなったな。その意味では無駄遣いが減ったかもしれないけど」
「ホームカミング クイーンか」その歌の一部をドクが言った。
「聞いてねえし」
「知ってるか、いや、覚えているか、おまえさんのあのボロ小屋に、クイーンじゃないが、プリンセスが来たことを」
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