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新婚生活
結婚後初出勤の朝。
とは言っても一緒に暮らすようになって数ヶ月。いつもと変わらない朝だった。
勤務先が近い私たちは、同じ時間に出て一緒に通勤している。
「ね~まだー?」
玄関からそうちゃんの急かす声が聞こえてきた。これも毎日のこと。あと5分早く起きればいいのに、朝に弱い私はそれができない。
「ちょっと待って!これで終わりだから!」
そうちゃんをなだめつつ、急いで口紅をして玄関に向かった。そしてそうちゃんの顔を見た瞬間
「あっ!」
今度は忘れ物を取りにバタバタとリビングへ引き返す。
「も~置いてくよー」
なかなか出発できないそうちゃんは呆れていた。
「ごめんごめん」
慌てて玄関に戻り、パンプスを履く。
「何忘れたの?」
「……指輪」
「ウソだろ。 初日からそれかよー」
「えへへ…そうちゃんはちゃんとしてるの?」
「じゃーん!してるよ」
そうちゃんは得意げに左手の甲をこちらに向けアピールした。
「さっすが愛妻家〜!」
「はいはい、わかったから。ほら行くよ」
軽くあしらわれ玄関を出ようとすると、
「ちょっと待った!」
今度はそうちゃんが足を止めて振り返る。
「もうなに~?」
「今日も頑張ろうね」
唇に軽くキスをした。
「もう……」っと私がイチャつきモードに切り替わった瞬間、そうちゃんは腕時計を見ながら「バスが来る!」と私を押し出すように玄関を開け、バス停まで急がせた。
出勤すると周りの人からの「おめでとう」の嵐。恥ずかしくてお礼もそこそこに席に着くと、机には名札、社員証、名刺、保険証などが届いていた。
名前はもちろん『桜井アヤ』
それらを手に取り “私、本当に桜井アヤになったんだなぁ……” と実感した。
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