新婚生活

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休みの間に仕事が溜まっていたらしく、その日のそうちゃんの帰宅は日付が変わる直前だった。 「今日はどうだった?」 一緒に働いていた頃とは違って連日激務だけど、どんなに遅くなっても家でご飯を食べるそうちゃん。夕食を食べながら話をする時間は貴重なひとときで、一日の報告も日課になっていた。 「指輪を見られてみんなから散々からかわれたよ~。本当に恥ずかしかった」 「“クールな桜井さん” が?」 「だから別にクールじゃないって。 でも『こんなに照れるのは初めて見た』って言われちゃったよ」 そうちゃんは照れ屋さんなのに。みんなわかってないなぁ。 以前ならそんな照れる姿は職場でもスタンダードで、いじられキャラだった。今は自分自身にも仕事に対しても自信を持っているんだろうなぁと感じる。 「あとはさ、アヤちゃんのことを言う時に何て言えばいいのか…… 奥さん? 嫁さん? 妻? 悩むよなー。アヤちゃんはオレのことを何て言うの?」 「まだ言ったことはないけど…… “主人” かなぁ。会社の人の奥さんが『主人がお世話になっています』とか言うじゃん?」 「いいね〜その響き!もう一回言って!」 そんなことでテンションが上がってせがむそうちゃん。仕方なく「はいはい。『主人がお世話になっています』……これでいい?」と、少し棒読み気味に言う。 「そんな呆れて言わなくてもいいじゃん。アヤちゃんだって『うちの妻が〜』って言われたら嬉しいでしょ?」 そう言われて、そうちゃんが誰かにちょっと照れながらそんなことを言っているのを想像してみる。 うん、悪くないかも。 「そうだね。なんかいい感じ!」 「でしょ?奥さん」 「もーやめてよ〜。ねーねー、そうちゃんも私が『うちの主人が〜』って言ってるのを想像してみて!」 「ヤバい。ちょー嬉しい!」 「でしょ〜?」 こんなふざけた話で盛り上がる、相変わらずおバカなふたり。 ひとしきり騒いだ後、そうちゃんは 「でもさ、なんかそういう言い方をすると結婚したんだなあって実感するよね」 しみじみと言いながら表情を緩めた。 そうだね……結婚が決まってからいろいろあって本当に大変だったけど、こうしてまた笑いあえる日々が来たことに感謝してる。
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