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「はい、立花です」
「あっ、梨華ちゃん?」
最近ではこう呼ぶまでの関係になっていた。
「ええ、そうですが」
「俺、蟹座なの知ってるよね」
「はい、存じ上げております」
「今朝のテレビの占いによると、蟹座の人は今日絶好調らしいんだ」
「それは良かったですね」
梨華は純一がこの後何を話すと思っているのだろうか。
「驚くなよ」
「はい? 何でしょうか?」
「な、なんと、俺、この4月から主任となることが内定しました」
「えっ、そうなんですか。それはおめでとうございます」
「ありがとう。だから、これからは仕事が忙しくなるので、悪いけどこのゲーム今日で終わりにしたいんだ」
「そうですか…」
梨華の声が沈んでいく。
「うん。それで、これから最後のアレを言うからよく聞いてほしい」
「わかりました」
今にも泣き出しそうな梨華の声に、純一の胸まで詰まる。
「これから俺が話すことはゲームなんかではなく、本当のことだと思ってほしい。俺は梨華のことが『好きだよ』、大好きだよ」
すべての思いを込め、心から言った。電話の向こうで梨華が息を飲んだのがわかった。
「だから、俺と結婚してください」
梨華は黙ってしまった。梨華の沈黙が純一にとってはひどく長いものに思えた。ひょっとして自分は大きな勘違いをしていたのだろうか。
その時、梨華の声が再び聞こえた。
「ありがとうございます。そのお申し出、喜んでお受けさせていただきます」
精一杯ビジネス対応している梨華が、愛おしくてたまらなかった。
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