第二章 それはゲームから始まった

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「はい、立花です」 「あっ、梨華ちゃん?」  最近ではこう呼ぶまでの関係になっていた。 「ええ、そうですが」 「俺、蟹座なの知ってるよね」 「はい、存じ上げております」 「今朝のテレビの占いによると、蟹座の人は今日絶好調らしいんだ」 「それは良かったですね」  梨華は純一がこの後何を話すと思っているのだろうか。 「驚くなよ」 「はい? 何でしょうか?」 「な、なんと、俺、この4月から主任となることが内定しました」 「えっ、そうなんですか。それはおめでとうございます」 「ありがとう。だから、これからは仕事が忙しくなるので、悪いけどこのゲーム今日で終わりにしたいんだ」 「そうですか…」  梨華の声が沈んでいく。 「うん。それで、これから最後のアレを言うからよく聞いてほしい」 「わかりました」  今にも泣き出しそうな梨華の声に、純一の胸まで詰まる。 「これから俺が話すことはゲームなんかではなく、本当のことだと思ってほしい。俺は梨華のことが『好きだよ』、大好きだよ」  すべての思いを込め、心から言った。電話の向こうで梨華が息を飲んだのがわかった。 「だから、俺と結婚してください」  梨華は黙ってしまった。梨華の沈黙が純一にとってはひどく長いものに思えた。ひょっとして自分は大きな勘違いをしていたのだろうか。  その時、梨華の声が再び聞こえた。 「ありがとうございます。そのお申し出、喜んでお受けさせていただきます」  精一杯ビジネス対応している梨華が、愛おしくてたまらなかった。
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