第二章 それはゲームから始まった

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 純一が帰宅の準備をしていた午後8時頃、一本の電話が入った。電話をとった新人の木村敏夫が純一に向かって言う。 「大野さん、電話です」 「誰?」 「山村物産の方みたいです」  山村物産は取引先企業の一社だ。帰ろうと思っていたところだったので、正直面倒くさいなとは思ったが出ないわけにはいかない。重い気持ちで受話器をあげる。 「はい、大野です」 「ワタシ」  耳に飛び込んできたのは、梨華のいたずら気たっぷりな声。しかし、まだ残業している他の社員たちに悟られないためにも、こちらはあくまで山村物産の人間と話しているようにしなければならない。 「いつもお世話になっております」 「ふふ」  純一の答えを面白がっているようだ。それにしても、『ふふ』は勘弁してほしい。 「それで今日はどのような用件でしょうか?」  純一はあくまでビジネス対応をする。 「あのさあ、今、私、公園近くの公衆電話からかけてるんだけど、目の前でカップルがイチャイチャしてるのよ。どうしてくれるのよ」  こっちが梨華の話に乗れないのをわかっていて、わざと仕掛けてくる。 「はあ。そうおっしゃられてもですねえ」  梨華は純一の言葉などまるで無関心のように、自分の言いたいことだけを言う。 「あっ、話違うんだけどさあ、今週の金曜日またデートしない?」 「ええと、その件はスケジュール調整しまして、こちらから改めて連絡させていただきます」 「うん、わかった」  そう言った後、少し無言になる梨華。沈黙に耐えかねて純一が口を開く。 「いかがでしょうか」 「好きだよ」  ためにため、思いを込めたように言って、いきなり電話は切られた。その瞬間純一は心臓をわしづかみされたような感覚に陥った。少しの間受話器を持ったままボォっとしてしまった。ゲームの初回ということもあってか、今日は刺激が強かった。胸の中のざわつきが収まらない。こんなことが繰り返されたらどうなっちゃうのだろうか。純一の、この心配は、いい意味で現実のものとなる。  
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