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「ねえ、大野君、ゲームしない?」
「ゲーム?」
「うん」
「どんなゲーム?」
「私たち仕事で外出することがあるじゃない」
「そりゃあ、あるよ」
「でね、例えば私が外出した時は私が大野君に電話して、大野君が外出した時は大野君が私に電話するの」
「部署が違うんだから特に用事はないと思うけど」
「まったくー、マジメか。そんなことどうでもいいのよ。これはゲームなんだから」
「なるほど」
「それでね、大事なのはこれから。話の内容は何でもいいの。その日ほんとうにあったことでもいいし、前日テレビで見たことでもいいわけ。ただ、会社で受けているほうはあくまで仕事の話をしているていにするわけ。例えば、『そうですか、先方に伝えておきます』とか、『はいわかりました。では、そのようにします』とかね」
「うん、わかるよ」
しかし、ここまで梨華の話を聞いていてもそれほどゲーム性は感じられない。
「そして、話の最後に必ず『好きだよ』って言うの。ここまでがゲームのルールだから絶対守ること。特に最後の言葉は決め台詞だから、それ以外のことは言っちゃダメ」
「ええー、何、それー」
純一は思わず大きな声を出してしまったが、次には受け入れてしまっていた。
「でも、面白いかも」
まったく関心のない相手とだったらやらなかったと思う。でも、純一はすでにこの時点で梨華に好意を抱いていた。
ゲームは翌日からスタートするということで、その日は早めに別れた。しかし、実際には仕事の中で行動を起こすチャンスはそうそう訪れない。特に企画開発部に所属する純一は、そもそも外出する機会自体が少ない。
だが、その日は突然訪れた。
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