第二章 それはゲームから始まった

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 営業部に所属する梨華のほうが外出の機会が多いため、必然的に梨華から電話を受けることのほうが多くなる。梨華は、最後に言う『好きだよ』の言い方を、その都度変えてきた。ある時は可愛い声で、可愛らしく。ある時は色っぽく『す・き・だ・よ』と言ってみたり。時には、恥ずかしそうにボソッと言ってみたりと。いつしか純一は梨華の電話を心待ちしていた。  一方の純一にも数は少ないものの外出の機会はあった。その際には、梨華に負けじと最後の決め台詞の言い方に工夫を凝らした。例えば、わざとぶっきらぼうに言ってみたり、低い声で囁くように言ってみたり、甘えた口調で言ってみたりと。  ゲームが二人の距離を縮めたことは間違いない。デートも重ねるようになった。ただ、実際はデートというより、同期の気の合う仲間と雑談を楽しむという雰囲気だった。暗黙の了解で、お互いゲームのことには触れないようにしていた。もし触れたら、真剣に話し合わなければいけなくなるような気がして、二人とも触れたくとも触れられないと思っていたのかもしれない。  しかし、最初の動機がゲームだったとしても、『好きだよ』と言われ続け、またいい続けることによって『恋』は本物になっていた。少なくとも純一はすっかり梨華に心を奪われていた。だから、純一はルールを破る決意をした。  ある日、久しぶりに訪れた外出の機会。仕事を早々に終えた純一は、新宿にある公園の中に入った。この公園は都内にあるにも関わらず昼間でも人が少なく静かな場所であることを知っていたからだ。携帯を取り出し、会社に電話する。 「営業部の立花梨華さんをお願いします」 「どちら様でしょうか?」 「親戚のものです」  純一の声に緊張が混じっていたせいか、受付の者は何かあったと勘違いしたようだった。すぐに繋いでくれた。
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