愚者の恋

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「あれ?久米君...。  今日なんか、テンション低くない?」 いつもそんなに高いわけではないはずなのに、職場の先輩である十和子さんに聞かれた。 人の心の機微には疎いはずなのに、この人は。 ...なんで今日に限って、気付くかな? 「そうっすか?  いつも通りだと、思いますけれど。」 仮眠から目覚めたばかりだった事もあり、少しだけ苛立ちを覚えながらも答えた。 「いいや、低いよ。  だって君、眉間のシワ、やっばいよ?」 くくっ、と笑って、顔を覗きこまれる。 「...うるさいなぁ、ほっといて下さいよ。」 いつもならば絶対にしない、無礼が過ぎる受け答え。 でも彼女は気にするでもなく、ポケットからチョコレートを一粒取り出し、何の前触れもなく僕の口へと突っ込んだ。 「...それ、いつのなんですか?  食べて、大丈夫なヤツなんでしょうね?」 むぐむぐと、口を動かしながら聞いた。 すると十和子さんは、天を仰ぐみたいにしてあらぬ方向を見て、答えた。 「いつのだっけ?わかんない。  でもチョコなんかでお腹壊したって話、聞いた事ないし。」 答えながら彼女は、自身の口にも一粒放り込んだ。 「まぁ、そうかもですけど。  ...とりあえず、ありがとうございます。」 口内に甘い香りと味が広がり、心が軽くなるのを感じた。 「今日ね、結婚式なんっすよ。...元恋人の。」
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