愚者の恋

3/4
21人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
普段なら全く嬉しくない日曜の出勤だけれど、今日は家に一人で居たくなくて、二つ返事で引き受けた。 「へぇ...、そうなんだ。」 彼女はさして興味も無さげに、机の上に置かれたミニスカート姿の魔法戦士のフィギュアを手に、答えた。 「最初から、分かってて付き合ったんですけどね。  アイツはノーマルだから、いつかはこういう日が来るって。」 言いながらちょっと泣きそうになり、目元を両手で隠した。 十和子さんはなおもフィギュアを弄りながら、ふむ、とだけ言った。 「当然っちゃ、当然ですよね。  男同士、なんの生産性も無いのにずっと一緒にいるだなんて、不毛だと僕も思うし。  どちらでも好きになれるなら。  ...彼女の事も好きならそうする方がいいって言って、僕もアイツの為を思って身を引いた訳ですし。」 声が、震える。 別れたのはもう、半年近くも前で。 ...どうしたらいい、と彼に聞かれ、その背中を押したのは他でもない、僕だったはずなのに。 ...なのに未だに片方ずつわけ合った、このピアスすらも外せないでいる。 「その人の事、本当に好きだったんだねぇ。」 十和子さんはフィギュアを机に置き、再び僕の方を向いて言った。 「好きでしたよ。  っていうかたぶん、今も好きです。  だから彼には、幸せになって欲しいなって、思っています。」 そこまで言ったところで、涙が溢れ出した。 「そんだけ好きになれる相手に出逢えるって事はさ、たぶん、幸せな事だよ。  地球上にいる男の数は、えっとー....。  35億、だっけ?  その中からその人に出逢えたって事はきっと、それだけで奇跡みたいな事なんだよ。」
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!