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「随分と不純な動機だこと……」
肩を微かに震わせ、また本を漁る。
手伝ってやっか? なんて言い寄って来る姿は、優しい男、なのに。
「他人の理屈を殺すのが楽しいのか、お前は」
「あん?」
「理由だよ。お前が殺人を快楽とする、理由」
意味深長な一言に、ぴたり。隼人の本に伸びた手が止まった。
ふとぶつかった視線。紅眼は冷めていく。だが、金眼は真っ直ぐに、それを貫いていた。
「支配の行き着く先が殺人と言うならば、何の価値もない」
「はっ……、価値は自分で決めるんで」
確信に迫ろうとしたら、はぐらかされる。
掴めるようで、掴めない。
親友も恋情を独り占めする彼女も、逃亡技術に関しては一枚上手。
だから、追いたくなる。どうしても捕まえたくて、追い越したくて。
「お前も書けば?」
「哲学書をか?」
「そう」
「はは……それはごめんだな。他人に自分の情動や心情を理解して貰おうとは思ってないから」
「ふぅん……」
退屈そうに過ぎる時間。
秒針と本を漁る音だけが、部屋内に響く。
「……理解されたくもないし」
数分後。ぼそっと吐かれた呟きに、隼人の手が止まる。視線が向けば、金目は眼光を鋭くしながら彼を睨み、その口元はどこか笑っていて。
「俺越しの姫を知られたくない。説きたくもなければ、見せたくもない……こう見えて、独占欲は強い方でな」
そうして、「はははっ」と、爽やかに笑って見せる。
これが牽制だと言うならば、内心ほくそ笑んでるのかも知れない。やはり、侮れない男だなと隼人は隼人で納得せざるを得ない訳で。
「じゃあ、白夜が哲学書を書いたらどうするよ?」
「愛読書にするな。それ以外、何も読まない……」
「へぇ。さすが」
「お前は?」
「そりゃ、勿論」
ーーそれを手にした奴等を片っ端から、殺してく。
静かな書斎に一つ、無邪気な笑顔が咲いた。
不純な動機。けれども、二人にとっては命を懸けるに値する、動機。
……END
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