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「白夜がねぇ……」
「また尻軽か」
「寝不足の理由を聞いたのは空吾だよ? 最後まで聞いて?」
「仕方ねぇな」
普段の飾った口調に戻り、一安心。慣れた手つきで葉巻をフラットカットし、火をつける。
独特な香りを吹き付けられ、不快そうにする霙。からかいでそうした空吾は、珍しく無邪気な笑顔を溢した。
親友だからこそ、自然体で居られる。普段は見せないそれに、霙もまた、安堵の笑みを漏らす。
「膝枕。してくれるの、最近」
「それで?」
「白夜ってばいつも先に寝ちゃって。胸が顔にべったり、ぎゅうって。理性を飛ばさないようにしてたら、毎日寝不足だよね」
「はあ……?」
親友の苦笑に、拍子抜けと言う名の痛撃を食わされる。
馬鹿だ。いつもながらに、コイツは馬鹿以外の何者でもないと、顔面が引き吊る。
そんな空吾を見つめ、くすくすと肩を震わせて。霙はとても楽しそうだ。
「プラトニックなんて、貫いた事ねぇもんで……」
頬杖をつき、冷めた影のある笑みを浮かべる。本性を隠さない表情に、警鐘が鳴り響く。彼女だけは、自分の最後の砦。
誰にも壊されたくない。例えそれが、唯一心を許した親友であっても。
「貫け。意地でも」
「厳しいねぇ。お前やっぱ、アイツに気あんのか」
「ねぇよ。あれは奥入瀬に勝つ為の最終兵器だ。高ぇ金出して買ったもん、簡単に壊されちゃ堪らねぇんだよ」
「壊れねぇって。ヤッた位で」
「はっ、無理に手出したら壊れるだろうが」
「そりゃ間違いねぇわ」
嘲笑のような高笑いが室内に響き渡る。不穏な空気。
それに踊らされる事なく、ただ一点だけに尖鋭な視線を集中させる。それに気付き、霙はやれやれとした表情を浮かべた。
「安心しなよ。霙、白夜にだけは無理矢理なんて真似しないからさ?」
「だったら寝ろ。それじゃなきゃ、此処から出さねぇ」
「あー、嫌だ嫌だ。干渉が過ぎるんだよ、空吾は」
「色恋に世話を焼くつもりはねぇよ」
ソファーの上、腕を枕に目を瞑る。「先に寝るなよ」なんて軽口を飛ばし、霙もまた同じ格好で目を瞑った。
数十分後、穏やかな寝息が室内に漏れる。それを聞き、開いた瞼。
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