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「……寝るの?」
瞑った目。透き通った優しい声が耳を掠めたが、それでも、と。返事を失くす。すると、再び髪に絡んでくる指。撫でるように、そっと、優しく。
「距離感考えろ」
「ん?」
「だから尻軽なんだよ、お前は」
「考えてるよ。考えて、こうしてる。皆にこうしたくて……、こうするの」
「何で、」
「好きだから?」
「……、あ、そ」
不純な動機だな、なんて。言える筈もない。
だって、それを言ってしまうと自分は相当不純な動機で、彼女を手にした。私怨に巻き込んでしまったのだから。
こんな時こそ、こうして感情を抱いてしまった時にこそ、良心の呵責に苛まれる。
好意など、要らない。寧ろ嫌ってくれた方が楽だ。
どうせ最後に、この手で殺めてしまう命ならーーふと、握ってしまった手。彼女の素っ頓狂な声が飛ぶ。
「どうしたの?」
「煩わしい。止めろ」
「そっかぁ……」
不意に握り返された手に、らしくもなく目を真ん丸くして。
ぶつかった視線。確かな体温。彼女はとても穏やかに微笑むばかり。どんなに予防線を張った所で、結局内に秘める本当の自分には敵わない。彼女の優しさを、自分に抱いた感情を大切にしたいと。叫ぶように、求めてしまう。
がっちりと握力を込めてしまった手は、そんな救いようのない悲鳴を、決して言葉には出せないものを、溶かしていく仕草。
「ははっ……、痛い、なぁ……」
溢した声はいつの間にか、旋律を辿り始める。ふわふわと温かい子守唄に、嗅ぎ慣れた親友の好きな香。
空吾が眠りについたのは、割りとすぐだった。
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