不純な動機

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不純な動機

仕事の資料集めにと出向いた書斎。 奏はそこで、この一室に相応しくない、或いは似合わない人物が居た事に大層驚きを隠せなかった。 「何してるんだ、お前は……」 「暇潰し」 本棚に腰掛け、退屈そうに胡座をかく姿はいつもの親友だが、何せ手にしてる本がらしくない。 そもそも、暇潰しで手にするような本でもない。 故に一瞬、困惑した。そして少しばかり、面白くもなった。 「哲学書なんて、らしくもない」 はは、と。茶化しが入った笑顔に見向きもせず、 紅眼は字を辿るだけ。 そんな親友の物珍しい姿に違和感が拭えない。 「お前が他人の人生観に興味を示すなんてな~……」 適当に本を漁りながら、軽い声を飛ばす。 だが、返事はない。 ふと横目で親友を映してみても、視線は字に落とされたままだ。 「ねぇよ、興味なんて」 「じゃあ何で、哲学書なんだ?」 「くっだらねぇな、って」 「は……?」 くすくす、くすくす。退屈そうな表情が一変、冷めた笑みに変貌を遂げた。 人を小馬鹿にしたような笑いが飛んだかと思えば、床に叩きつけられ、足蹴にされた本。 「哲学ってのは、ソイツの中にある根本的な原理。つまり、テメェ自身だって事よ」 「そうだな……。で、それが何だ?」 「それを否定すれば、拒絶すれば……作者を殺せる。燃やせば焼死、破けば切り刻むのと同義だ」 紅眼が爛々と光る。不気味な嘲笑に、言葉を返せず苦笑い。だがそれも、成程、と。 彼ならば、納得せざるを得ない動機で。
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