3503人が本棚に入れています
本棚に追加
/131ページ
しかし、会社に戻ってくると、部内のみんなが拍手で出迎えてくれたのだ。
「おわっ!なに?!」
いちばん驚いていたのが、大輝だ。
すでにひったくりを捕まえた、ということは、部長である白石を通して、部内のみんなが周知しているらしく、帰ったら大歓迎だったのだ。
理由は、ショッピングモールからも感謝の連絡があったことと、警察からも、報告が来ていたから、とのことだった。
さすがに精鋭だと、どこからも手放しの称賛を受けたらしい。
「草下、よく不審者に対応したな。大輝、お前の瞬発力には感心した。辻堂も落ち着いていてよかった。急なことではあったけれど、みんなとっさに身体が動いていてよかったと思う。お疲れ様。」
その、落ち着いた藤崎チーフの言葉を聞いて、辻堂もやっと肩の力が抜ける。
やはり、この人はしっかり見ていてくれているし、フォローも出来る人だ。
この人について行くことに、迷いはない。
「チーフぅぅ…。もー、僕、すごい怒られるかと。」
「なんでだ?お前が今回は一番の功労者だろう。思い切ったダッシュ、本当に感心した。それに、大輝のダッシュのあと、草下がすぐフォローに入っていたし。俺は今回の件は十分以上の結果を出したと思うぞ。」
大輝が子犬のように、藤崎チーフにまとわりつきながら、なおかつ褒めちぎっている。
気持ちは分からなくもないな。
辻堂は、そこまでの表現はできないけれど、やはり、藤崎を上司として改めて尊敬したことは間違いない。
厳しくも、見るべきところは見てくれている上司だ。
それでいて、自分たちがどこを目指せばいいのか、もきちんと示してくれる。
今回はリハーサルでもあるし、完璧ではなかったかもしれないけれど、この人を失望はさせたくない。
白石部長が、今日はどこかに飲みに行こう!と言い、大輝が大喜びしつつ、店を探し出す中、辻堂は藤崎の姿が見えないことに気づいた。
ん…?
そういえば、佐倉の姿も見えない。
その姿を探して、フロアを歩き回り、ふと給湯室に、人影がいるのに気づいた。
「謝らないでください。あの、本当に今日、すごく素敵でした。」
その声は、佐倉のものだ。
確かに、佐倉も怖い思いをしただろう、と思うと、フォローが必要なのかもしれない。
そんなところにまで気を使うのか…と思うと、辻堂は壁に背を預け、少し考える。
いつか追いつきたいと思うし、この人の横に並んで、信頼してもらえるような人になりたいと思う。
けれど、こんなところまで負けてしまっていて、自分はいつになったら、その背中においつけるのか。
努力しよう。
それしか、ない。
そこで聞こえる、佐倉のか細い声。
「もう、手、大丈夫です…。」
少し照れを含んだ、甘さのある声。
ん?ん?何を…?
これ、やばい。
絶妙にいい雰囲気に…。
すると、部署の方から、草下が姿を現す。
「チーフ知らないか?」
「あ、給湯室にいるけど。」
「部長がみんなで飯行こうって言ってるぞ。」
「知っている。それで、ここまで探しにきたんだ。」
「じゃあ、早く呼べよ。」
給湯室に行こうとした草下の腕を思わず掴んでしまう。
「なんだよ。」
「いや…。」
「チーフー!白石部長が飲みに行こうって言ってます!」
でか…。
なんつー声で…。
「よし!草下、行くか!」
右手右足、同時に出そうな不自然な気配で、藤崎が給湯室から出てきて、そこにいる草下と、辻堂の姿を見つけて、笑顔になる。
その笑顔にはすでに動揺はなかったけれど、なんか、すみません!
最初のコメントを投稿しよう!