4.実地訓練

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しかし、会社に戻ってくると、部内のみんなが拍手で出迎えてくれたのだ。 「おわっ!なに?!」 いちばん驚いていたのが、大輝だ。 すでにひったくりを捕まえた、ということは、部長である白石を通して、部内のみんなが周知しているらしく、帰ったら大歓迎だったのだ。 理由は、ショッピングモールからも感謝の連絡があったことと、警察からも、報告が来ていたから、とのことだった。 さすがに精鋭だと、どこからも手放しの称賛を受けたらしい。 「草下、よく不審者に対応したな。大輝、お前の瞬発力には感心した。辻堂も落ち着いていてよかった。急なことではあったけれど、みんなとっさに身体が動いていてよかったと思う。お疲れ様。」 その、落ち着いた藤崎チーフの言葉を聞いて、辻堂もやっと肩の力が抜ける。 やはり、この人はしっかり見ていてくれているし、フォローも出来る人だ。 この人について行くことに、迷いはない。 「チーフぅぅ…。もー、僕、すごい怒られるかと。」 「なんでだ?お前が今回は一番の功労者だろう。思い切ったダッシュ、本当に感心した。それに、大輝のダッシュのあと、草下がすぐフォローに入っていたし。俺は今回の件は十分以上の結果を出したと思うぞ。」 大輝が子犬のように、藤崎チーフにまとわりつきながら、なおかつ褒めちぎっている。 気持ちは分からなくもないな。 辻堂は、そこまでの表現はできないけれど、やはり、藤崎を上司として改めて尊敬したことは間違いない。 厳しくも、見るべきところは見てくれている上司だ。 それでいて、自分たちがどこを目指せばいいのか、もきちんと示してくれる。 今回はリハーサルでもあるし、完璧ではなかったかもしれないけれど、この人を失望はさせたくない。 白石部長が、今日はどこかに飲みに行こう!と言い、大輝が大喜びしつつ、店を探し出す中、辻堂は藤崎の姿が見えないことに気づいた。 ん…? そういえば、佐倉の姿も見えない。 その姿を探して、フロアを歩き回り、ふと給湯室に、人影がいるのに気づいた。 「謝らないでください。あの、本当に今日、すごく素敵でした。」 その声は、佐倉のものだ。 確かに、佐倉も怖い思いをしただろう、と思うと、フォローが必要なのかもしれない。 そんなところにまで気を使うのか…と思うと、辻堂は壁に背を預け、少し考える。 いつか追いつきたいと思うし、この人の横に並んで、信頼してもらえるような人になりたいと思う。 けれど、こんなところまで負けてしまっていて、自分はいつになったら、その背中においつけるのか。 努力しよう。 それしか、ない。 そこで聞こえる、佐倉のか細い声。 「もう、手、大丈夫です…。」 少し照れを含んだ、甘さのある声。 ん?ん?何を…? これ、やばい。 絶妙にいい雰囲気に…。 すると、部署の方から、草下が姿を現す。 「チーフ知らないか?」 「あ、給湯室にいるけど。」 「部長がみんなで飯行こうって言ってるぞ。」 「知っている。それで、ここまで探しにきたんだ。」 「じゃあ、早く呼べよ。」 給湯室に行こうとした草下の腕を思わず掴んでしまう。 「なんだよ。」 「いや…。」 「チーフー!白石部長が飲みに行こうって言ってます!」 でか…。 なんつー声で…。 「よし!草下、行くか!」 右手右足、同時に出そうな不自然な気配で、藤崎が給湯室から出てきて、そこにいる草下と、辻堂の姿を見つけて、笑顔になる。 その笑顔にはすでに動揺はなかったけれど、なんか、すみません!
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