3622人が本棚に入れています
本棚に追加
「お風呂、入ってきます。」
「うん。俺は洗面所使っているから、紗夜はゆっくり入っておいで。」
「え…と、来ませんか?」
大きく動揺した辻堂だが、それは顔には出さずに、紗夜に微笑みかける。
「一緒に入る?」
「あ…の、せっかくなので。」
辻堂は笑って、紗夜の頬を撫でた。
「じゃあ、あとから行くよ。」
赤くなって、こくりと頷いた紗夜は、身体を起こして露天に向かう。
一方で、室内にある洗面所に向かった辻堂は、鏡の前で、腕を組んで呼吸を落ち着かせていた。
まるで、ジェットコースターのようだ。
昨日、腕の中で寝られてしまったのは、嬉しくもあったけれど、若干、肩透かしな気持ちもあったことは、否定できなかった。
今朝は、耳元で紗夜の『絢人さん、大好きですよ』という囁き声だ。
あれは、ヤバい。
ごそごそし始めたから、起きたのだろうな、とは辻堂も思っていた。
どうするんだろう、と思っていたら、あんな風に囁くから。
紗夜の中で、辻堂の存在があり、とても大事に思ってくれているのは分かっている。
辻堂も、きっと紗夜は恋愛に関するいろいろが、初めてなんだろうから、とにかく大事にしてあげたい、という気持ちがある。
なのに、時折、紗夜は驚く程、大胆で、それが彼女の中で無意識で、辻堂には予想外の事も多い。
大抵の事は、予想を外したことのない辻堂の、予想外を突いてくる、のはなかなかにできることではないのだ。
だから、紗夜は面白い。
予想のつかない、ジェットコースターのようで。
ジェットコースターだって、レールが見えていれば、コースが分かる。
紗夜の場合は、思いもかけないところから、思いもかけないものが出てくる。
けれど、だから、惹かれる。
辻堂は今まで、約束された道を外さず歩いてきた。
ここに来て、自分で選び取った道は、ひとつひとつが、新たな挑戦や冒険や、そんなものでいっぱいだ。
その中で、紗夜に選んでもらったことは、得難いことだと思っている。
愛おしい、大事な、俺の宝物、だ。
最初のコメントを投稿しよう!