19.朝を迎えて

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「お風呂、入ってきます。」 「うん。俺は洗面所使っているから、紗夜はゆっくり入っておいで。」 「え…と、来ませんか?」 大きく動揺した辻堂だが、それは顔には出さずに、紗夜に微笑みかける。 「一緒に入る?」 「あ…の、せっかくなので。」 辻堂は笑って、紗夜の頬を撫でた。 「じゃあ、あとから行くよ。」 赤くなって、こくりと頷いた紗夜は、身体を起こして露天に向かう。 一方で、室内にある洗面所に向かった辻堂は、鏡の前で、腕を組んで呼吸を落ち着かせていた。 まるで、ジェットコースターのようだ。 昨日、腕の中で寝られてしまったのは、嬉しくもあったけれど、若干、肩透かしな気持ちもあったことは、否定できなかった。 今朝は、耳元で紗夜の『絢人さん、大好きですよ』という囁き声だ。 あれは、ヤバい。 ごそごそし始めたから、起きたのだろうな、とは辻堂も思っていた。 どうするんだろう、と思っていたら、あんな風に囁くから。 紗夜の中で、辻堂の存在があり、とても大事に思ってくれているのは分かっている。 辻堂も、きっと紗夜は恋愛に関するいろいろが、初めてなんだろうから、とにかく大事にしてあげたい、という気持ちがある。 なのに、時折、紗夜は驚く程、大胆で、それが彼女の中で無意識で、辻堂には予想外の事も多い。 大抵の事は、予想を外したことのない辻堂の、予想外を突いてくる、のはなかなかにできることではないのだ。 だから、紗夜は面白い。 予想のつかない、ジェットコースターのようで。 ジェットコースターだって、レールが見えていれば、コースが分かる。 紗夜の場合は、思いもかけないところから、思いもかけないものが出てくる。 けれど、だから、惹かれる。 辻堂は今まで、約束された道を外さず歩いてきた。 ここに来て、自分で選び取った道は、ひとつひとつが、新たな挑戦や冒険や、そんなものでいっぱいだ。 その中で、紗夜に選んでもらったことは、得難いことだと思っている。 愛おしい、大事な、俺の宝物、だ。
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