19.朝を迎えて

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タオルで、髪を巻いて、紗夜は湯船に入った。 「っはー…。」 お湯に浸かると、自然にため息が出た。 今のいままで、いろんなことでうだうだ考えていたのも解けそうだ。 お風呂の一番深いところに、お尻をつくと、溺れそうなので、段差のところに腰掛ける。 腰掛けるとそこからは、外がよく見えた。 緑の、景色。 空も綺麗に晴れている。 朝の爽やかな空気。 本当に、すごく贅沢。 紗夜は、お湯をそっと、手の平にすくう。 女将の言う通り、とろりとしたその、お湯は肌に柔らかく、気持ち良い。 焦ったり、悩んだり困ったり、迷ったり…けれど、それは一人では出来ないことで。 辻堂さんがいるから、こんなにたくさんの感情に戸惑っちゃうのね。 けれどそれは、甘くて、幸せなことだ。 「ふふっ…」 自然に零れた笑みに、紗夜は気づいて、心から幸せな気持ちになる。 「紗夜…?」 カラリと引戸の開く音がした。 「どう?」 背後の洗い場では、シャワーを出したり、多分身体や髪を洗っている気配がする。 紗夜はどきどきしながら、それを背中で感じていた。 「あ、気持ちいい、です。」 「熱いの?」 紗夜が、段差に座っていることに気付いた辻堂に、そう声をかけられる。 「いえ、段差の下だと、溺れそうで。」 「ああ、深いのか。」 「ん…。」 声が近くて、さらに緊張が高まり、胸がどきどきし出す紗夜だ。 紗夜はきゅっと目を瞑った。
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