5.対象

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「門倉紗夜じゃないですか?対象って彼女なんですか?」 思わず呟いた辻堂の声に、藤崎が反応する。 「辻堂、知ってるのか?」 「もちろんです。」 某国営放送の朝のドラマからCM、映画、と彼女の活躍の場は幅広い。 「お前、ファンか?」 そういう訳ではない。 嫌いではない。 どちらかと言うと、好感は持っているが。 「…というか、朝ドラの顔は常識ですよ。」 そんな言い方でごまかす。 「ヤバい。俺、そういう意味では本当に常識知らないんだよ。」 藤崎が慌てている。 いざ、となって知らないではまずい、と急に思ったようだ。 けど、そんなところもこの人らしい。 「チーフはいいんですよ。それで。」 表情が少しぬるい感じだったかもしれないが、本当に完璧なようでいて、常識を知らないのか?!と慌て出すとか、可愛いかよ! そのままでいい、と言いたくなるではないか。 その後、門倉紗夜のマネージャーだと言う、城戸を紹介してもらった。 城戸は人懐こくて、人当たりの良さそうな人物だった。 警護を受けると伝えたところ、 「良かったぁ。もう、僕、どうしていいか、分かんなくて!」 と両手で握手でもしそうな雰囲気だ。 「後でお話し、伺えますか?」 「もちろんです!あ、紗夜ちゃんも紹介しますね。」 にこにこしていて、とても感じのいい人物である。 藤崎はそれに笑顔を返して、辻堂、と声をかける。 少し、離れたところに2人で向かった。 「はい。」 「手紙からすると、ベタ付きがいずれ必要だと思う。もう、明日からにでも。 警護も必要だけど、それだけではなくて、その人物の特定も出来そうなら、進めていきたい。」 先程までの表情とは全く違い、緊迫した雰囲気を纏った藤崎が、辻堂に声を低くして伝える。 「チーフのご指示に従いますよ。何かあってからでは遅いし、彼女は日本の宝です。」 藤崎は口元に手を当てて、少し考えるようだ。 「このまま、ついてもらってもいいか?今日の彼女の帰宅まで。」 ついにこの時が来たのだ。 辻堂は決意を込めて、深く頷いた。 「分かりました。」
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