2.面接

1/2
3510人が本棚に入れています
本棚に追加
/131ページ

2.面接

3人で会うことになったものの、辻堂は、実は当日までさほど乗り気ではなかった。 言うなれば、当日も。 待ち合わせの店の入り口に着いた時、少しだけ考えが変わった。 それは、その店が非常に洗練されていたから。 店の選択というのは、実にセンスを問われるものだと思っている。 それによって、印象が変わることすらあるものだ。 今回は期待せず来たら、期待を大きく超えていたケース。 この先にいるのは、何者なのだろうか、という気持ちになった。 辻堂が個室に案内された時、すでに、その人は座っていた。 「白石さん、こちらが辻堂さんです。」 「こんにちは。白石と申します。」 にこやかな人、という印象。 しかし、どこかで名前を…。 「辻堂さん、白石さんは元々私の上司だった方なんです。」 承認印か。 何度か、名前は見た事はある。 名刺をもらったけれど、社名だけではよく分からない感じだ。 ご本人は取締役部長…。 「すみません。私は今は特に名刺もないような立場で。」 「うん。検察を辞めたんですってね?」 にこにこしながら、どストレートな人だ。 しかし、気分は悪くはない。 「僕もその名刺、何の会社か分からないですよね。警備業なんですよ。」 プライム・サービス・グローバル、確かにこれだけでは、何の会社なのかさっぱり分からない。 「なるほど…。」 警備会社、そう言われても、頭に思い浮かぶのは、工事現場で赤いライトを振る人だ。 あとは、ビルの入口に立っている人とか。 最近は電車のホームにもいたりするな…と思いながら、なぜ、自分なのか…という考えになる。 そこからは、すこし、業界の裏話的な話も交え、その白石部長のエピソードを聞いたりしていた。 ご苦労されて、まさに現場からの叩き上げ、で署長にまでなった人らしい。 現場の星、というか現場の憧れの存在であったようだ。 けれど、押しが強いわけでもなく、どちらかと言うと温和だし、とても叩き上げには見えない。 料理もある程度進んで、酒も進みかけた頃合いである。 「辻堂さん、4号警備ってご存知ですか?」 「すみません、あまり詳しくなくて。」 「警備業っていくつかに分かれているんですけどね、4号警備は分かりやすく言うと、ボディーガードです。 身辺警備、緊急通報サービスに対応します。今、個人でもこちらの需要が大きく叫ばれています。 まあ、叫ぶ、と言っても範囲は限られているけれど。警察官も成り手が少ないそうなんですね。今後、テロへの警戒を含めて、民間と官公庁がどこまで協力できるか、というところも検討されています。」 実のところ、辻堂は書類上のことには詳しいが、現場にはさほど詳しくない。 頷いて聞くしかない状況だ。 「うちの会社は今、4号警備に参入しようとしていまして、現在、海外からプロとして活躍していた人材を招聘して、専門部署を立ち上げるところです。」 「海外…。」 「彼も面白い人材ですよ。元警察官で、数年で退職して単身アメリカに渡って、現地の警備会社に就職して、プロの第一線にいた人物です。」 ものすごく、ごつい、小山のような男を想像する。 しかし、そんな人物までいるとは、白石という部長の笑顔の下の本気度が半端ない、という事は分かる。 「辻堂さん、その新しいチーム、入ってみませんか?」 「は?!」 「とは言え、突然のことだし、あなたのような人なら、引きも切らないでしょうから、一度、そのチームを率いている部長代理に会ってみてください。 そこで、お断りいただいても構わないですよ。」
/131ページ

最初のコメントを投稿しよう!