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警備員は、免責の適用外のため、もし業務中に相手にケガをさせてしまって、それが正当防衛と認められなければ、業務上過失傷害の罪に問われる。
つまり、何かあっても相手にケガをさせずに、取り押さえる技術が必要となる。
特に、草下は空手の段を取得しているとのことなので、何かあれば過剰防衛になってしまうそうだ。
それは、武道をやっている辻堂も同じだが、辻堂がやっていたのは合気道で、基本的には流すタイプの武道になる。
草下や、武道はやっていなかったものの、運動神経が良すぎる大輝のような苦労は少ない。
自分の身体を使った訓練と加えて、警棒を使用した訓練もする。
ケガをさせず取り押さえる訓練。
ビル周りを警戒している最中に急に、藤崎に走れ!と言われたりする。
不審者対応。
ジャージならば、まだいい…。
スーツでこの全てをこなすのだ。
『替えは必要』
休みの日、筋肉痛の身体を引きずって、スーツを2着新調した、辻堂だった。
しかし、尊敬するのは、藤崎だ。
気づくと3人はよれよれになっていても、藤崎は涼しい顔で、スーツも、髪型すら乱れていない。
「化けもんすよ…あの人…。」
武道場に転がされた、大輝がポツリと言っていて、
「おい!3人とも寝っ転がってんじゃないぞ。」
とにやっと笑ってくる藤崎に、辻堂も同じ感想を抱いたからだ。
夕方、パソコンに向かって日誌を作成していると、大輝に声をかけられた。
「辻堂さん、この後、草下さんと飯でも行こうかっていってるんすけど、辻堂さんもどうですか?」
明日は土曜で休みだ。
藤崎からは、場合によっては、警備が入ると土日がなくなる可能性があると聞いている。
とすれば、こんな風にゆっくりしていられるのも、今だけのことかもしれない。
「ぜひ。」
3人で向かったのは、会社近くの大衆居酒屋。
「辻堂さん、生でいいすか?」
「ああ。」
「あー、ハラ減ったあ。」
大輝は意外と大食漢なのだ。
草下が取りあえず生3つ、と頼んでいる。
乾杯して、久々のアルコールを楽しむ。
「辻堂さん、身体、大丈夫ですか?」
「いや。結構筋肉痛が…。」
「俺もなんですけど。草下さんは?」
「まあ、俺は慣れているから。筋肉痛までは…。」
草下に気の毒そうな顔で見られた。
そうだろうな…。
「それでも1日終わったらぐったりじゃないすか。知ってます?藤崎代理、あれだけじゃ、足りねーって、終わった後、社内のジムとか行ってるらしいです。」
はあ?!てか、社内にジムあるのか…そう言えば、最初の方に言われたかもしれない。
けど…、あの訓練の後に、ジム??
「本当にすごいなあの人…。」
「どうなってるんですかね…。来週からはさらに本格的な訓練をするって言ってましたね。」
先週くらいから、少しずつ、実地を想定した研修に入ってきている。
それは、いろんなところを歩き回り、
「今のビルの警備の問題点はなんだ?」
とか、警備上の注意点などをその場で確認するような研修だった。
お陰で、最近はコンビニに入っても、カフェに入っても、まず警備状態を確認するようになり、少し自分が怖くなった辻堂だ。
そんな話をしたら、草下も大輝も俺も俺も、となって、早くも職業病なんだろうか、とみんなで認識を共有したりした。
そんな研修も進んできたある日、
「座学は今日で最終だ。明日からはさらに専門的に、実地の訓練に入っていくんだが、その前に、みんなでうちで鍋、どうかな?」
そう藤崎が誘ってくれた。
大輝は大喜びしている。
チーム3人で囲む鍋は、とても楽しかった。
藤崎の海外の話もさらに聞けたり、草下の自衛官時代の裏話も楽しくて。
「研修期間が終了したら、実はすでに仕事が決まりそうだ。」
その場で、藤崎にサラッとそう言われた。
「部長に感謝してな。実は、とある人物がストーカー被害にあっている可能性がある。それがエスカレートしつつあるようで、できればそのストーカーの確定ができるまでが、仕事の期間。」
ストーカー被害…。
微妙な案件のような気もするが、そういうものなのか、と理解した。
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