6.現場

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「今日は僕が担当しますが、チームは全員で4名です。明日はまた別人が付くと思いますよ。」 「え?辻堂さんじゃないんですか?」 門倉が、初めて辻堂を見た。 その目線を初めて受け止めて、辻堂はドキンとする。 真っ直ぐで、とてもピュアな瞳。 少し不安げに揺れているのも、守ってあげたい、と思わせるようなものだ。 それにどうやら名前も覚えていたらしい。 そのすべての気持ちを押し殺して、辻堂は口を開く。 「はい。一人では無理ですから。」 そう言えば、人見知り、と言っていたか。 辻堂は、門倉だけをまっすぐ見て、極力柔らかく話す。 「大丈夫ですよ。同じチームのメンバーだし、門倉さんの状況については、皆で共有しています。 しばらくは、門倉さんは、僕のチームと一緒に動きますので、顔だけ覚えていて、なにかあったら、なんでも言ってくださいね。」 「分かりました。」 初めてちゃんとした会話になった気がした。 その後、また、門倉がカメラの前に呼ばれて、明るい中に立つ。 たしかに人見知りではあるようだけれど、とても素直な性格ではないのだろうか。 「辻堂さん?ちょっといい?」 それは、先ほどのメイク担当の男性だった。 門倉が目には入るけれど、人からは少し距離のあるところに、呼ばれる。 「俺、紗夜ちゃんの専属ヘアメイクを担当している、早見真悟といいます。聞いてもいいかな?辻堂さんみたいな人が付くってどういうことかな?」 先ほどまでの声ではなく、男性らしい押し殺した声だ。 「詳細なクライアントからの依頼内容はお話出来ないのですが…、不審人物等に心当たりがあればお教えいただけると助かります。」 早見は、その整った顔立ちの顎に、ふ、っと手を触れた。 「ごめん、俺自身は心当たりないんだけど、事務所宛に手紙やメールが来ているのを紗夜はとても気にしていて。少し、怖がっていたから。」 「僕はこの世界に疎くて、本当に申し訳ないんですが、専属ヘアメイクとは、どういう立場なんです?」 「紗夜ちゃんの現場には、ほぼ同行する、という感じかな。彼女、本当に人見知りなんだ。フォトジェニックだし、お芝居もすごく上手い。 こういうCMでは、クライアントさんのイメージを汲むのもとても上手だよ。 でも、人付き合いはとても苦手だから。専属なら、担当が毎回変わることはないからね。」 「彼女をお守りするために、なにかあればお知らせください。依頼内容についてはお知らせ出来ませんが、こうして、ここにいることをお察しいただけると…。」 「分かった。俺にも大事な子だから。よろしくお願いします。」 早見は素直に辻堂に頭を下げた。 「えっと…、早見さんは、…?」 「違うから。彼氏とかではないよ。幼馴染みなんだ。紗夜のことは可愛くて、大好きだけど、そういうことではないから。」 「分かりました。仕事ですから。」 最初は女優の警護、と聞いて、どんな人なのかと思ったが、門倉紗夜がこんなに人見知りで、素直な感じの人だとは思わなかった。 その時、ふと、映画のスクリーンで見た彼女の姿が頭に思い浮かぶ。 雨のなか、復讐を遂げようとしていたその姿は、壮絶で、妖艶さすら感じたのに、実際の彼女は儚げで、人見知り。 そして、本当に天使のようにふわりとしている。 どうしたって、目が惹きつけられるのは、さすがに芸能人としての吸引力があるからなのだろう、と思った。 「アタシの好みは、辻堂さんとさっき一緒にいた彼なのよねえ。」 急に話し方が元に戻る早見だ。 ん?さっき一緒にいた彼? チーフか? 「藤崎さんは…アメリカにいた人なので、おそらく偏見はないですけど、多分、他に好ましいと思っている人がいると思いますよ。」 給湯室での会話を思い出して、微笑ましい気持ちになる辻堂だ。 「あら、残念。」 「早見さん。」 「なあに?」 「ありがとうございます。よろしくお願いします。」 「もちろん、出来ることはなんでも協力するわよ。」 早見は、辻堂の肩をポン、と叩いた。
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