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研修初日、他に同期が2人いることを、そこで始めて知った。 一人は色んな意味で硬そうな草下駿、もう一人はにこにことしていて、若い感じがする瀬谷大輝。 挨拶をした役員達が出ていったあと、3人の中心に藤崎部長代理が立つ。 「資料を配る前に、いくつか伝えとく。まず、この4人はチームだ。白石部長と俺が選んだチームで、会社の期待も大きい。研修は詰め込みのところもあるし、厳しくもなると思う。お互い、何でも言えるようにしよう。」 キリッとした、武将のような雰囲気と、ハキハキした話し方は頼り甲斐がある。 いい上司に恵まれたかもしれない、と辻堂は思った。 簡単な自己紹介を、と言われ、その瞬間、藤崎はにっと笑う。 「名前とよろしくお願いします、だけは禁止。頑張りますとか、ご迷惑をおかけするかも知れません、も禁止だ。」 確かに、なかなか厳しい…。 「ちなみに、この後はセッションしてもらうので、自己紹介した内容から、他の人へ、質問を最低1つは考えておくこと。メモは取っていい。すぐ、出来るか?」 大輝がハイ、と手を挙げる。 「3分下さい。」 「了解だ。では、自己紹介の時間は3分。1人、3分は話せよ?」 え?!と皆が固まった。 「あの…、もし、5分、と言ったら…。」 恐る恐る、という感じで草下が尋ねると、藤崎は、ふふん、と笑った。 「もちろん5分やってもらう予定だったさ。」 なんと言うか、今まで会ったことのないタイプの上司だった。 けれど、そのちょっと荒いとも思える自己紹介でいろんなことが、分かった。 こんな強引な方法でもなければ、短時間でお互いのことを理解することは難しかっただろう。 草下駿は、元自衛隊とのことだった。さすがに退職の理由までは話さなかったが、地方への災害救援などはとてもやりがいがあったと話していたのが印象的で、警備経験も長いとのことだ。 4号警備に興味があり、どうしてもやってみたかったという。 身体も大きく鍛えられており、このメンバーの中では一番向いているような気がする。 気は優しくて、力持ち、という感じだ。 瀬谷大輝は、長く陸上をやっていた、と話した。 「陸上で就職したんですけどね、ケガで、辞めざるを得なくて…。」 その時の表情は、今までの元気のあるものと違い、少し影があったのが印象的だ。 元気にせかせか話す、という雰囲気なのだが、この自己紹介については、言葉を選んでゆっくり話している。 その判断はとても正しい。 明るく見せてはいるけれど、意外と人の気配に敏感な気がした。 「それって、辞めなきゃいけなかったのか?」 紹介中に言葉を挟んでいいのか…とは思ったが、辻堂は聞いてみたかった。 藤崎は少し離れたところで、腕を組んで、その様子を見ているだけだ。 止められないのだから、問題はない、と判断した。 「んー、本当は辞めなくて良かったみたいですよ。でも…、復帰までに時間のかかるようなケガだったし、自分の…なんて言うか、心が折れてしまって…。 俺、引きこもっちゃったんですよ。1年くらいかなあ…外に出られなかったんです。その中で、夜間の警備していた時に、同僚のおじさんに君ならこういうの、できるんじゃないかって、言われて。で、チャレンジしたんですよ。」 彼の明るい雰囲気からは、引きこもりなんて、とても感じられない。 意外と苦労しているのかもしれない、と、辻堂は思った。 「俺は…検察官でした…。」 いざ、自分が話し出す番になると、大輝が言葉を選んでゆっくり話していたのがわかる気がした。 よろしくお願いします、とか、だけでは伝えられないことを伝えようとするからだ。 それに、前の2人もきちんと自分のことを自分の言葉で話してくれた。 だから、辻堂もそうしたいと思ったのだ。 ああ、藤崎が言う、仲間でチームだって、そういう意味なのか…と腹落ちした。 ふ、と表情を緩め、辻堂は2人を見る。 「お二人は、検察ってどんなイメージですか?」 「なんか、政治家の裏金を暴く…とか…。」 「うん。送検、とか聞くよね。たまにニュースでみる箱をたくさん持って押収したり…とか?」 辻堂は苦笑した。
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