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第一志望だった会社に採用され、念願だった、研究室に配属が決まった。
勿論、樹生も一緒だ。
大学の寮を出て、通勤に便利なマンションに引っ越す時も、隣同士の部屋を借りた。
樹生に負けたくない気持ちは、相変わらずだったし、彼が周囲にちやほやされているのを見ると、ムカムカした。
だけど、一緒に居ることは、さほど嫌ではなくなっていた。
一緒に居る方が、樹生を「見張れる」からだ。
仕事では、彼に負けたくない。
毎日、仕事に没頭した。
目指すは、アメリカにある研究所への栄転だ。
その時に備えて、英語も勉強した。
樹生も、同じ英会話教室に入会し、二人でいるときは、出来るだけ、英語で会話をするようにした。
英語力が上がるばかりでなく、嫌な上司や同僚の愚痴が、英語なら面白いくらいすらすらと言えてすっきりする。
樹生は、僕のそんな愚痴を、笑ってジョークで流すのが、いつもの会話の流れだった。
3年後、いよいよ、海外転勤の打診が来た。
僕ら同期からは、女性1名、男性1名。
女性は、水原佐和子に、ほぼ内定していた。
入社した時から、水原の事を好ましく思っていた僕は、期待に胸を膨らませた。
水原は、明るくて頭の良い、綺麗な女性だった。
気が合うのか、話しをしていると、とても楽しい気分になる。
休憩や昼食の時に、水原と樹生と3人で、テーブルを囲むのが嬉しかった。
僕が選ばれれば、最高だ!
だけど、もし、選ばれなかったら?
水原はアメリカに行ってしまう。それも、樹生と一緒に。
僕は悩み抜いた結果、気持ちを伝えることにした。
あわよくば、もし僕が駄目でも、水原が思いとどまって、日本に残ってくれるかもしれないと思ったからだ。
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