消えた樹生

2/4
前へ
/20ページ
次へ
翌朝、二日酔いで目を覚ました。 玄関には、空のワイングラスが転がっていた。 隣の樹生の部屋のインターホンを鳴らしたが、応答が無い。 一人で、出社したが、朝のミーティングが終わっても、樹生は現われない。 夕方になった頃、ちょっとした騒ぎになった。 「篠原君と連絡が取れないから、警察に連絡して、部屋を訪ねてみよう」 課長にそう言われたときに、昨夜の顛末が脳裏を過ぎった。 まさか・・・・・・・ 警察官の制服が、事の大きさを、尚更に大きくしているように思えてならなかった。 僕の心臓は、嫌な予感に震えていた。 一応、インターホンを鳴らしてみたけれど、応答は無い。 警察官の合図で、いつも見慣れている管理人さんが、樹生の部屋の鍵を開けた。 「樹生?居るの?上がるよ?」 先頭の僕が、そう声をかけながら、靴を脱いで部屋へと移動した。 その後を、警察官と、班長と課長が続く。 樹生の部屋は、きちんと片づけられていた。 そして、彼の姿は、どこにも無かった。 そのかわりに、テーブルの上に、白い封筒が、3通置かれていた。 1通は、会社宛。 1通は、両親宛。 1通は、僕の名前が書かれていた。 まずは、会社宛の封筒を、課長があけた。 会社宛の、お詫び文と、退職届が入っていた。 「どういう事だ?」 班長が、僕を見た。 僕は、震える手で、自分宛の封筒を開けた。 そこには、便せんに、見慣れた文字・・・・・・・・・1行だけの文字。 「篠原樹生は消えます」 僕は、声にならない叫びを上げた。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加