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中学生になった頃、僕は、化学者になる夢を抱くようになった。
化学実験で、色々なものが作れるようになりたい・・・・・・・・
「金」とか「媚薬」とかも興味無いわけでは無いけれど、僕が一番作りたいと思っている薬。
それを、口にするのははばかれるけれど、心にシミのように広がる欲望は、「樹生を消す薬」。
ずっと昔、「錬金術」というのがヨーロッパで流行して、怪しげな、魔術のようなものが横行したというのを聞いたことがあった。
図書室で、錬金術の本を探してみたけれど、中学の図書室にはそういうものは無かった。
次の休みに、市立図書館にでも行ってみよう・・・・
とりあえず、化学関係の本を数冊、本棚から抜き出して読んでいると、樹生が声をかけてきた。
「晴久、何を読んでるの」
隣の席に、すとんと座り、本をのぞき込まれると、胸がムカムカしてきた。
樹生に、僕の夢を知られた事が嫌なのだ。
だけど、僕はそんな気持ちを押し殺して、平静を装いながら、本を見せる。
「化学の本だよ。今までこの世の中になかったようなものを、作りたいんだ。
病気を治す薬とか、みんなが幸せになれる薬とか」
そう答える僕は、優等生だ。
「惚れ薬とか出来る?」
僕を見る、樹生の目がキラキラと輝いたように見えた。
「出来るかもしれないぞ」
心の中にある、決して口には出来ない秘密を押し込めるには、会話に乗ってみるのも手だ。
「すごい!願い事なら、なんでも叶う薬とかどう?」
「そんな薬が出来たら、真っ先に、僕が使うよ。それで地球が終わるかもしれないけどね」
僕は、樹生の子供っぽい発想を、笑いながら答えた。
「晴久は、そんなに愚かじゃ無いくせに。晴久はきっと、人の役に立つ願いをすると思うな。」
無邪気な笑顔に、僕の心の奥底の秘密がのたうち回る感覚に、目眩がしそうだった。
「晴久、もう一つ、同じ薬を作って、僕に頂戴。」
「いいよ。出来たらね。樹生は何を願うの?」
「ふふふ。秘密だよ」
樹生が何を願うのか知りたくてうずうずしたけれど、樹生の願いを聞いてしまったら、自分の願いも言わなくてはならない気がして、それ以上問いただす事は出来なかった。
もしかして、樹生も、僕を消そうとしている!?
その考えが、ちらっと脳裏を横切ったけれど、あどけない樹生の顔にそんな邪悪な考えがあるとは思えない。
少しは、僕の気持ちを気づけよ・・・・・・・
気づかれると困るくせに、ちらっとそんな事を思ってしまうほど、樹生は僕に対して無防備そのものだった。
「決めた!僕も、化学者になるよ!僕を、晴久の、助手にしてくれ」
樹生は、満面の笑みで言った。
女子が見れば、一目で恋に落ちかねないほど、眩しい笑顔だ。
だけど、僕は違う。
そんな樹生の顔を見ても、ムカムカするだけだ。
助手?
本当は、僕を助手にするつもりだろう・・・・・・
負けるものか。
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