2354人が本棚に入れています
本棚に追加
木の実がリビングに入ろうとした時、ジャスティンが誰かと話している声が聞こえた。
木の実の勘は、とっさに聞くなと告げる。
その直感に、木の実の体は回れ右をした。
でも、それでも、木の実の耳にジャスティンの言葉ははっきりと聞こえた。
「確かに、金曜日の夜はそこに毎週行くけどさ、でも、たまには、行けない日だってあるんだよ。
今夜は、俺がいなくても大丈夫だろ?
そんな、ガキんちょみたいな事言うなよ。
また、電話するから、じゃあな」
木の実はジャスティンの会話が終わってしばらくの間、廊下の隅で数分間、時間が経つのを待った。
電話の声なんか聞いてない、そういう風に自分を騙すために。
そして、木の実は何も聞こえなかったふりをしてリビングへ入ると、自分用の一人掛けのソファに座っていたジャスティンは、木の実の気配に気づいて立ち上がった。
「ナッツ、遅いよ」
「ごめんなさい…
部屋からの夜景を見てたら、あっという間に時間が過ぎちゃって…」
ジャスティンは、木の実の前に大きめのシャンパングラスを置いた。
「いつか、大切な時に飲もうって取っておいたんだ」
ジャスティンはそう言うと、ワインクーラーで冷やしておいたシャンパンのコルクを器用に開け、木の実のグラスに少なめに注いだ。
そして、自分のグラスにもしなやかに注ぐと、透明水の中にプツプツと炭酸が弾けるシャンパングラスを木の実のグラスにカチンと合わせる。
「僕の家へようこそ」
最初のコメントを投稿しよう!