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7才差の距離
物心ついた時には、隣にいた。
「兄ちゃん」
「ん?」
俺が呼ぶと長身を折り曲げて目線を合わせて、とても優しい瞳で見てくれるのだ。
それは両親よりも甘く、そして近い。
「なんでもなーい」
「・・・お前」
俺はそれが大好きで、意味もなく呼んでは兄を困らせていた。幼稚な戯れに怒るに怒れず、困ったように眉を下げる表情も大好きだった。
兄は小さい頃から同年代の中でも身長が高く、最低でも頭一個は上に出ていた。だから、兄を見つけられなくて泣いたなんて記憶は一切ない。その前に、兄の側から離れる事なんてなかったから。
隣に居るのが当たり前すぎて、それが当たり前じゃないと知った時には、もう、兄は自分の道を進んでいた。
「仕事中だから」
ある日、学校から帰ってきて自宅に出来た兄の仕事場に飛び込むと、冷たくそう言われた。
昔から、公私はきちんと分ける人だったけれど、それが俺に適用された事はそれまで一度もなくて、俺は茫然とした。
「あ、うん」
確かそんな事言って仕事部屋を後にしたと思う。
ショックすぎて、夕飯を食べて風呂に入って布団に潜り込んで体温と同じ位になった頃、漸く涙が出てきて大泣きした。
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