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今月も彼に負けてしまった。
私は壁に張り出された月間の成約表を眺め、深い溜息を吐く。
「今月も俺が一番だな。浅居」
皮肉気な声が私をさらに追い詰める。
「来月こそ、負けないから・・・見てなさい。碓氷君」
「ふん、その言葉が訊き飽きたぞ。浅居」
私の名前は浅居愛実(アサイメグミ)26歳。
大手生保会社『スイセン生命』大手町支社の保険外交員。
私の目に前に現れたのは、同期で同じ外交員の碓氷隼人(ウスイハヤト)。
悔しいけど、彼は我が支社内では営業成績万年トップのセールスマン。
ともかく、調子の良い性格。だけど、いざとなれば頼りになる兄貴的な存在で支社内では断トツの人気を誇っていた。
その上、175センチの長身で、清潔に切りそろえられた短髪の黒髪をワックスで整え、色素の薄い切れ長の瞳に、鼻筋の通った顔立ちのイケメン。
きっと、学生時代は何人もの女を泣かせたであろう。
「万年2位の浅居さん。今度こそ、俺に勝つ自信がありそうだな・・・」
「万年2位は余計よ!」
「そう怒るなよ」
彼は抑揚のない声で私を窘めた。
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