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3
「お主は蹴鞠が上手なんだな」
童は突然話しかけられ、鞠を蹴るのをやめてしまう。蹴っていた鞠を拾うと、それを白い鞠を強く抱き締めた。顔をしかめる童に、雅経はさらに身を屈め目線を揃える。
「我はお主を取って食おうなどとは思っていない。そのように怯えるでない」
「・・・・・・なんか、くさい」
突拍子もないことを言われ、雅経は目を見開く。そして、確認するように袖の匂いを嗅いだ。
「香を焚きすぎたのか・・・・・・それはともかく、我はどうしても蹴鞠が上手くなりたいのだ。どうか教えてはくれないか?」
雅経がお願いすると、童は持っていた鞠を返した。
「おじさん、変な匂いするけど、いいよ」
「まずは、どうしたらいいんだ?」
「さいしょはね、地面にぶつかって、はねたのを蹴るの」
雅経は言われたままに鞠を落とす。鞠が地面に当たり少しはねあがった。そこにすかさず足を出すと、蹴り上げることができた。
「そうそう。それを何回もつづけて」
童が嬉しそうに拍手する。雅経は何度も地面に当たった鞠を足の甲で蹴り上げた。その回数が五十を越えると、童がまた話しかける。
「じゃ、いつもみたいに、足のうえでやってみて」
そう言われて雅経は鞠を何度か蹴ってみる。以前よりも真上に蹴り上げることはできるようになった。しかし、回数を重ねることは出来ない。童は雅経が飛ばした鞠を拾い、唸りながらお手本のようにやってみせる。両足を交えても落とさない姿に、雅経はとても感心した。すると、閃いたように童は鞠を蹴り上げ、手で取ってみせた。
「分かった。ひざを曲げたまま蹴ればいいんだよ」
童は雅経の隣に並ぶと、蹴鞠をやる真似事をする。雅経も見よう見まねでやってみた。
「ひざを曲げて足をもちあげるようにするの。そしたら、回転しないからどっかいかなくなるよ」
雅経は言われた通り、足を持ち上げるように蹴るふりをする。
「足のゆびに力をいれて。当たったときにまけないように。ここに当たるようにするといいよ」
と、童は親指と人差し指の間にある付け根を差した。履物をよく見ると、雅経の知らない素材で出来ており、足の平には棘のようなものがついている。それ以上に目に付いたのは表面の汚れや皺だった。
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