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4
「どうして、そんなに履物がくたびれているのだ」
雅経がきくと、童の顔が沈む。
「たくさん練習してるんだ。まけたくないから」
悲しい顔をする童の前に雅経はしゃがんだ。
「そうなのか? 我が見る限り、とても上手に見えるがのう」
「でも、みんなと比べると弱いし、まだ上手じゃないから。それが悔しくて」
童の言葉に雅経は自分と重ね合わせる。俯いたまま今にも泣き出しそうな童に口を開いた。
「大丈夫だ。皆はじめは上手く出来ないものだ。我だって得意なことはあるが、はじめからできたわけではない」
「それは本当なの?」
「そうだとも。現に、我の蹴鞠の腕は童であるお主よりも劣っている」
そう言って地面にあった白い鞠を軽く投げ、蹴ろうとしてみせる。しかし、鞠は足に当たらず転がってしまった。その間抜けな様子に童が声を出して笑った。
「だが、お主はどうしたら乗り越えられるかを理解している。あとは、それを続けていくことだけだろう」
雅経は自分にも言い聞かせるように童に伝えた。童に笑顔が戻ってくる。
「うん。そうだね。それなら、がんばらないと」
そうして、二人は再び蹴鞠の稽古を始めた。何度も蹴り上げてはどこかに飛ばし、拾いに行ってくる。雅経が蹴るのを童は数を数えた。
夜風が吹くこともあったが、それでも汗が額から滲み、足に鈍い痛みが走り始めた。雅経が鞠を蹴り上げていると、疲れからふらつき転んでしまう。
「こんなに動いたのは、幼い頃以来か」
「今日はおしまいにしよ。けがしたらたいへんだもん」
子どもが飛ばしてしまった白い鞠を拾いに行った。すると、雅経は閃いたように立ち上がった。
「拾ったら少し待っておれ。お礼を持ってこよう」
階段を上がり、自室へ入っていく。自分の寝床へ行くと、そばにあった箱を開けた。その中には小さな石のような唐菓子が入っている。雅経は近くにあった巾着袋にいくつか入れていき、口を閉めた。一瞬気になって匂いを嗅いでみると、僅かにお香が漂った。
「いらないと言うかもしれないが、渡してみようか」
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