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人は愛しさが高じると自然と口づけをするものらしい。
……などと、そんなことを言えるわけもなく、適当に誤魔化す。
「先輩はどうでした?」
「さぁ、どうかしら」
先輩もまた、百合の花の笑みを浮かべてはぐらかす。
チャイムの音が鳴る。
もう下校時刻だ。
「今日はここまでにしましょうか。この本、今日のところは貸しておいてくれるかしら?」
白魚の指が『夢十夜』をするりと抜き取る。
「いいですけど、中身をすり替えたりしないでくださいよ?」
「ええ、もちろん」
「言っておくけど、フリじゃないですからね?」
「あら、心外ね」
他愛ない軽口を交わしつつ、片付けをして、部室を後にする。
窓の向こうの遠い空で、黄昏の一番星が瞬いていた。
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