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「意見が割れそうなところですね」
言葉というよりは擬音語か感嘆詞と呼ぶべき文字の羅列に埋め尽くされた本を、果たして『文学』と呼んでよいのかどうか。個人的な意見はさておき、世の中の大半の人間は認めないだろう。
「それに、あれはたまたまよ。今日は、ほら」
手の中の本を広げてみせる。
見て確かめるまでもなく、岩波文庫から出ている夏目漱石の「夢十夜 他二篇」だ。
「知ってますよ。僕が貸した本なんですから。むしろこれで中身がすり替わってたら、僕は泣きますよ」
「それは惜しいことをしたわね。今からでも」
「やったら絶交ですよ」
隣の椅子に置かれた鞄からナニかを取り出そうとする先輩を半目で睨む。
「冗談、冗談」
ころころと笑う先輩の姿に、ため息が漏れる。
「その様子だと、あんまりお気に召さなかったんですね」
「そんなことないわ。好きよ、これ」
手にした本の縁を、白魚のような指先でなぞる。この先輩の仕草はムダに艶めかしくて困る。
「だと良いんですけど」
個人的に夏目漱石の『夢十夜』は五本の指に入るお気に入りだ。
その表題があらわすとおり、ほぼ独立した十の夢の話から構成され、夢らしいリアルさと不合理が入り乱れる、やや不思議な話になっている。
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