第一話『夢十夜』夏目漱石

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 昨今の女子高生事情からすれば膝や太ももくらいどうということはないのかもしれないが、そのあたりをきちっとしているのが先輩なので、なにやら罪を犯した心持ちになる。 「平気よ、たいして動くわけでもないのだし」  先輩は横になったまま平然と見上げてくる。  信用されていると喜ぶべきか、男に見られていないと嘆くべきか。 「ええと、じゃあ」  なるべくそちらを見ないようにしながら、手にした『夢十夜』に視線を落とす。  実践的文学部、より正しくは『実践的文学研究会』という。  この同好会は「文学世界を実際に体験することでより深い理解を促す」という理念のもとに設立された。  作ったのはもちろん、今目の前に横たわる、この先輩だ。  入学早々、ひょんなことからこの同好会に引っ張り込まれて、以来、こうしてよく実地検証のようなものにつきあわされている。  今から二人で、『夢十夜』第一夜の状況を再現してみるのだ。 「”こんな夢を見た。腕組みをして枕元に坐っていると、仰向きに寝た女が、静かな声でもう”――」 「”もう死にます”」  光を宿した黒く大きな瞳が真っ直ぐに見つめてくる。  ”女は長い髪を枕に敷いて、輪郭の柔らかな瓜実顔をその中に横たえている”。  まさにその”女”の姿を、先輩の姿に見て、おもわずドキリとする。     
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