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「えー……”真白な頬の底に温かい血の色が程よく差して、唇の色は無論赤い”。たしかにこれは、”到底死にそうには見えない”ですよね」
「”でも、死ぬんですもの、仕方がないわ”」
先輩は一言一句違えず、女の台詞を辿る。
「じゃあ、もしかしたら本当は死んでなかったとか?」
「生きたまま私を埋めたのね。ひどいわ、あなた」
「いやいや、埋めろって言ったのは先輩……じゃなくて、女の方ですよ?」
「あなたになら、殺されても良いと思ったの」
「急に話が重たくなってきましたね」
「でも、それくらいの仲には見えるでしょ?」
「それはたしかに」
生き生きとしながら死ぬ死ぬと言う女と、本当に死ぬのかなぁといぶかしむ男の、ちょっとずれた掛け合いが続く。
「まぁ、順当に考えれば、お話を重くしすぎないための工夫と、あとは二人が気のおけない男女の仲であることを表現するための仕掛けですかね」
「まっとうすぎて面白みに欠けるわ」
「いいんですよ、それで」
それから、女は言う。
「”死んだら、埋めて下さい。大きな真珠貝で穴を掘って。天から落ちて来る星の破片を墓標に置いて下さい。そうして墓のそばに待っていて下さい。また逢いに来ますから”」
女は、先輩は、静かに語る。
「いつ、会いに来る?」
「”百年待っていて下さい”」
声にかすかな熱を込めて、
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