第一話『夢十夜』夏目漱石

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「”きっと逢いに来ますから”」  切々とした黒い瞳に射抜かれて、胸がつまる。 「……待っててくれないの?」  先輩がわざとらしく上目遣いで目を潤ませる。  それで正気に戻った。 「”待ってる”」  先輩はにこりと笑うと、また頭を横たえる。  黒い瞳がぼんやりと焦点を失いはじめる。  ”静かな水が動いて写る影を乱したように、流れ出したと思ったら、女の瞼がパチリと閉じた。長い睫の間から涙が頬へ垂れた。――もう死んでいた”。  恐るべき喪失感と悲しみが、音もなく胸を穿ち、声を失う。 「……どう?」  先輩がパチリとまぶたを開けて見あげてくる。 「色々と台無しですよ」 「ということは、悲しんでくれたのかしら?」  いたずらっぽく笑う。 「さて、埋めないと」 「あなたに生き埋めにされたい」 「物騒なこと言わないで下さい。ふりだけですよ。せいぜい布でもかけるくらいですけど、今日は何もありませんから」 「残念ね。今度、おふとんのあるところでやりましょう」  黒い無地の靴下に包まれた流線型のふくらはぎが床の上のジャージをかく。 「あー……ええと、この先の描写が特に好きなんですよ」 「ファンタジックなのに、生々しくて、でもそれが美しいわよね」     
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