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「”きっと逢いに来ますから”」
切々とした黒い瞳に射抜かれて、胸がつまる。
「……待っててくれないの?」
先輩がわざとらしく上目遣いで目を潤ませる。
それで正気に戻った。
「”待ってる”」
先輩はにこりと笑うと、また頭を横たえる。
黒い瞳がぼんやりと焦点を失いはじめる。
”静かな水が動いて写る影を乱したように、流れ出したと思ったら、女の瞼がパチリと閉じた。長い睫の間から涙が頬へ垂れた。――もう死んでいた”。
恐るべき喪失感と悲しみが、音もなく胸を穿ち、声を失う。
「……どう?」
先輩がパチリとまぶたを開けて見あげてくる。
「色々と台無しですよ」
「ということは、悲しんでくれたのかしら?」
いたずらっぽく笑う。
「さて、埋めないと」
「あなたに生き埋めにされたい」
「物騒なこと言わないで下さい。ふりだけですよ。せいぜい布でもかけるくらいですけど、今日は何もありませんから」
「残念ね。今度、おふとんのあるところでやりましょう」
黒い無地の靴下に包まれた流線型のふくらはぎが床の上のジャージをかく。
「あー……ええと、この先の描写が特に好きなんですよ」
「ファンタジックなのに、生々しくて、でもそれが美しいわよね」
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