第一話『夢十夜』夏目漱石

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「拾い上げた星の破片のぬくもりが、ここの描写そのものにも温かみを与えてくれているような気がして」 「丸くて、温かくて、まるで赤ちゃんのようね」 「もしかしたら、命を象徴しているのかもしれませんね」  そして男は星の破片の墓標に向かい、日が昇っては沈むのを、ひとつ、ふたつと、数えていく。 「百年分の太陽の浮き沈みですか」 「おおよそ三万六千五百回、正確には閏年が入ってくるから、三万六千五百二十五回かしら」 「そう聞くと意外とそうでもない気がしてきます」 「百十六歳になるまで待っててね」 「本気で頑張ればギリギリ届きそうなのがまたリアルな」 「生まれ変わったら百十六歳差の年の差婚よ」 「恐ろしく好色なエロ爺になった気分です」 「でも、愛は本物だわ」 「百年も待つわけですからね」 「ふと思ったのだけれど、この間、女性の意識はあったのかしら?」 「もう死んでますよ」 「でも、自分の意思で生まれ変わるのでしょう? 人の身から、姿を変えてでも、愛する人に再び逢うために。ならそこには、常に彼女の意識があったのではないかしら」 「そう考えると、実は女性の方が大変だったのかもしれませんね。男はただぼんやりと待っているだけですから」     
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