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「百年、待つのよ? 本当か嘘かもわからない言葉を信じて、ただひたすらに待ち続ける、並大抵ではないと思うわ」
事実、男はやっぱり”欺されたのではなかろうか”と訝しむ。
愛する人の墓標を見つめて、百年待つ。
きっと逢いに来るという、その言葉だけを信じて。
それは恐ろしく残酷で、とてつもなく美しく、尊いことのように思えた。
「あたかも男性の愛と信頼を糧に育つかのように、ついには墓標の下から、一輪の百合が咲くのね」
先輩はゆらりと体を起こして、ちょうど胸の下あたりまで顔を持ち上げる。
”一輪の蕾が、ふっくらと辯を開いた”
あたかも花の香が濃密に香るがごとく、先輩の笑みがすぐ目と鼻の先にある。
”花は自分の重みでふらふらと動いた。自分は首を前へ出して冷たい露の滴る、白い花辯に接吻を”――
「……はっ!?」
慌てて、首を引っ込める。
作品の空気に飲み込まれていた。
「ちっ」
「……今、舌打ちしました?」
「それで、どうかしら? 何か感じられた?」
「えぇと、どうでしょうね……」
百年を想いあって再び逢った男と女の間には、理屈もなにもかもが必要なかった。
ただ、そこにあって、惹かれ合う。
一瞬、身も心も忘我の彼方にあって、自然と体が動いていた。
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